この悪は世界に 2



あれから本部へ戻ったアックス達は報告を終え、リゼルの部屋に集っていた。
いつもここが溜まり場なのだ。リゼルも特に困ることもないので何も言わない。

「お帰りなさい、皆さん」

その中にいた小柄な少女が言う。しかし、そこには感情とゆう感情が籠っていない。顔も無表情。黙っていたら人形のようだ。

「ただいま、シャンクス。心配してくれてたの〜?」
「し、んぱ…い…?」

僅かだが首を傾げる。あ、とフォルテは想う。シャンクスは痛み、辛さくらいの事は何となく知っているが、それ以外は何も知らない――忘れてしまったのだと本人から聞いたのだ。何故忘れたのかは、教えてくれなかったが。
どうそのことについて話そうか考え込んでいたら、別の声が話を繋げた。

「……例えばオレが怪我をしたとしよう。シャンクスはどんな気持ちになる?」
「え、あ、……リゼルさん達が怪我する所を想像したら、辛いです。モヤモヤとよく分からない気持ちになります」
「それが心配なんだ。大切な人が傷付くのは辛いことなんだ。悲しいだろう?」
「…悲しい、は分かりません」

表情は変わりもせず、淡々と言う。だが、心の中では辛いと思っているのだろう。ただ、顔に出ないだけで。
だからリゼル達はシャンクスに感情と言う"モノ"を教えている。彼女はそう扱っているのだ。少しずつ思い出せるように。

「ん?」

アックスは、ドアを見つめる。何やら廊下の方が騒がしい。バタバタと焦ってるような足音はドアの前で止まり、ドアが開く。フォルテ目掛けて走っていき思いっ切り抱きしめた。

「フォルテちゃんお帰り〜! ハラハラしながら待ってたんだよ! 無事かどうか」
「あ〜ユア、ただいま。そして引っ付くな! 暑っ苦しい!」
「それは愛故に?」
「違うわ! 気色悪いこと言ってんじゃないわよ! この、ナンパ野郎!」

自分からユアを引き離そうと両腕に力を込めるが、男相手に勝てるはずもない。お腹を拳で、渾身の力を込めて殴った。効いたのか「ぐぇ」と声が聞こえ、ユアはその場に疼くまり腹を押さえた。
抱擁から逃れたフォルテはすぐさまソファの後ろに避難した。

「あいかわらずだな、ユア。フォルテのパンチが効いたようだね」

一部始終を見ていたアックスが楽しそうに言う。
ラーグは軽蔑したような目で見つめ、馬鹿だな、と呟く。ユアは頭をあげる。まだ痛そうに涙目になっていたが、二人を睨み付ける。

「うるさいな。男共にそんなこと言われる筋合いこれっぽっちもない」
「そうですか。でもさ、ずーと前から同じこと繰り返してるのによくもまぁ懲りないね。すげぇや」
「まぁな。それが俺様のポリシーだからな!」
「……変質者並のポリシーだな」
「あ゙? テメェ今何て……」
「ちょっと! ラーグ、ユア言い合いやめっ!」

喧嘩が始まりそうな予感がしたので止めに入る。二人は睨み合うのを止め、ラーグは顔を背ける。ユアはリゼルを見ると、嬉しそうにさっきそうしたようにまた抱きしめた。

「リゼルちゃんもお帰り! 怪我はしてないよね?」

「してはない、してはないが……」

頼むから放してくれ、と言おうとしたが、抱きしめている両腕に力を入れられて苦しくなる。

「してはない、が!? まさかリゼルちゃん、大変な目にあったの? 例えばラーグに…」

意識が遠くなりそうになったが急に強い力が弱くなる。ゴン、と音がした。ユアが寄りかかってくる前に、彼の体がガクリと倒れた。シャンクスが何故か、右手に堅いグローブらしきものをつけていて。

「マスター、力を緩めないとリゼルさんが三途の川に辿り着いてしまいますよ。つまり死んでしまいます」

無表情で下で倒れて気を失っている、自分のマスター、ユアに声をかけ見下ろす。唯唯、見下ろすだけ。ユアの暴走を止めるのは、いつもの事で見慣れてはいたが、やはりいざ見るとなると、黙ってしまう。自分の武器のグローブで鳩尾を殴ったようだ。
暫くの沈黙。

「リゼルさん、フォルテさん、アックスさん、ラーグさん、ご迷惑を掛けました。マスターも悪気があった訳ではないと、思いますが………」

ペコリと頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。

「シャンクスが謝ることなんてないのよ? 悪いのはユアだし」
「いえ、マスターの失敗は私の失敗。……そして、マスターが悪い事をしたならば、私が制裁するまでです」

まだ倒れているユアの襟を掴み、遠慮なく引きずりソファまで運ぶ。乱暴にやっているのにも関わらず彼は起きない。






mokuji



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