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 アリビンゲーブ 40

壁へ戻る道中、ちょうど壁の手前に大きなカーブがある。
私は列の後列に位置していたので兵団全体を見渡すことが出来た。

途中ではぐれたいくつかの班と死傷者の人数分、隊列も幾分か縮小されていた。

…そういえば、先頭にいる主力部隊の頭数も足りない。
兵長、もいない…?

兵長の後ろ姿を私が見逃すわけがない。
団長や数人の分隊長はいるようだが、間違いなく兵長の姿は無かった。

どくん、と胸が苦しくなる。

負傷した?
彼に限って、まさか。

兵長、どこにいったの?

一体何が起こっているの?

手綱を握る指が急激に感覚を無くし、末端から冷えていくようだった。


パシュッ−−−−−


その時不意に主力部隊から信煙弾が放たれ、その音を聞いて周りの何人かの兵士が顔を上げた。
つられて煙を見上げると、向こう側から別の隊がこちらに向かって来ているのが見えた。

反対方面から壁を周ってきたようで、20名ほどいるようだ。
その部隊を先導する姿に息を呑んだ。

そこには、黒髪を揺らし静かに眼光を光らせる−−−−−
兵長の姿があった。

前を行く兵士達の後姿にその姿が見え隠れするが、間違いない。

兵長…。
本物だ。

ほぅ、と一気に体の力が抜ける。

何か別の仕事を任されていたのだろうか。
何にせよ、彼が怪我を負うなんて心配しすぎだった。
…私ごときに懸念されるなんて兵長も心外だろうな…。

ちょうど壁の前で隊列同士が向き合って合流する形となった。
主力部隊に溶け込むように合流した兵長は
団長と何か言葉を交わしているようだが、距離があるので内容は全く聞こえない。

カーブを通り過ぎ、兵長の黒髪が兵士に埋もれて見えなくなりそうな瞬間、その顔が一瞬こちらを振り返った。

ちらりと視線を漂わせ、隊列を確認しているような、誰かを探しているような素振りが見えた。


…!


人混みの中でほんの一瞬だけ目が合った気がしたが、彼は何も無かったかのように前へ向き直り、開門が始まった壁の中へと進んでいった。

気のせい、だよね…。
やっぱりそんなわけないか。



  


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