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 アリビンゲーブ 33

どくっ、と心臓が大きく音を立てた。
思わず唾を飲みこむ。


「…兵長…」


腕を組んで出口付近の壁に寄り掛かるその姿は、呆れた様な雰囲気を醸し出している。
出来れば兵長に話しかけたかったが、まだ何人かの兵士が同じように出口を目指しているような状況だ。

私から兵長に歩み寄ることは出来ない。
何の関わりもない私が兵長に話しかけるなんて、他の人にどう映るか分かったものではない。

席を立ってしまった手前、もう一度座るということも不自然なのでかなり挙動不審になりながらも他の兵士に続いて出口を目指す。
目線さえも合わせられない状況で、兵長の横を通り過ぎ…ようとした。


その時、


「!?」




ぐっと強く手首を掴まれ、引きずられるように講義室の外へ連れ出される。
扉の裏に連れ込まれて、扉と壁の間に押し込められた。

「な…」

手を放され、団服の襟元を掴まれてぐいっと引き寄せられる。

「んっ…!?」

顔が近づいた、と思った瞬間に口づけられ、そして次の瞬間には放された。

なに…!?

頭がついていかない。
だ、誰かに見られでもしたら…!


「…お前、憲兵団には気をつけろよ。」


彼の低い声が近くで聞こえた。

けんぺいだん?

単語さえも頭が一瞬理解しない。

チッ、と兵長は小さく呟き、乱暴に襟元を解放した。
支えをうしなった私の身体は後ろに重心を移し、壁に体重を預ける形になる。

不意に彼の目が結ばれた三つ編みにいき、その留め具を外された。
髪がさらりと小さな音を立てて自由になる。

「……外でも、死ぬなよ。」

向こう側へ向き直りざまにそれだけ言い残し、彼は足早にその場から去っていった。


…私の髪留めを持ったままで。



  


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