△ スチータス 05
そうして迎えた、壁外遠征の日。
それぞれ馬に跨り、隊列を組む。
今回は班ごとにそれぞれ異なった任務を与えられているので、出発時の隊形も目的地別に分けられている。
今回私の班は一番壁から近い拠点を担当する。
私達の後ろに続くのはリヴァイ班で、私の班の担当拠点より少し離れた場所を任されている。
何でも、前回巨人が多く確認された地区らしく、その掃討と調査をするそうだ。
人ごみから一瞬見えたリヴァイは
相も変わらず冷めた表情をしているが、その瞳だけはいつも威圧感を放っている。
「わ、班長。後ろは兵長の班ですよ」
そんな私を知ってか知らずか、班員が後ろを見ながら話しかけてくる。
「人類最強かぁ、班長話したことあります?」
「ーーーうん…まぁ…ね。サインを貰わなきゃいけないこともあるし…。」
「あの兵長に…。怖そう…。」
本気で怯えている部下の様子に思わず笑みが零れる。
そういえば、彼に別れを告げてから数日後に訓練場の許可をもらいに団長の部屋に行ったことがあった。
扉を開けると団長は不在で、リヴァイと彼の部下が一人いるだけだった。
予期せぬ出来事に反応も出来なかった。
お互い目を合わせたまま、相手の出方を伺ったが彼の瞳に私が勝てるはずもない。
音がならないように唾を飲みこみ、要件を告げた。兵士長は団長に次いで第二位の立場なので、許可証自体には何の問題もない。
「リ…兵長、訓練場の使用許可を頂けませんか」
ずっと、関係が親しくなってからは名前を呼ぶ許可をもらっていたが、部下もいるこの場で目上の彼を呼び捨てにするわけにもいかない。
だが、私の言葉を聞いて彼は微かに眉を潜めた。
「……いいだろう。許可証を貸せ」
何の気なしに紙を差し出しているだけなのに、なぜ手が震えてしまうのか。
「ありがとうございました。失礼します。」
サインをもらってからは足早にその場を後にした。
あの時、確かに私達の関係は変わったのを実感した。
眉を寄せたリヴァイの顔を見たのは久々だったな。
新兵として調査兵団に配属され、何かあるごとにリヴァイと顔を合わせていた。
怒らせると怖い、なんて噂しか回ってこないので初めの頃は蛇に睨まれた蛙の状態だった。
そんな私の受け答えを聞いて、やっぱり彼はあんな表情を見せていた。
なんだか、関係がまわりまわって何も無かった頃に戻ったような…そんな虚無感を覚えた。
個人的な感情が入ってしまうのが怖くて兵長としか呼べない。
…きっと、もうリヴァイと呼ぶこともないだろう。
「エマ班長、いよいよですね。」
その声に周りを見渡すと、全兵士準備を終えたようだ。
「うん、皆、油断しないでね。」
私の言葉に、班員全員が力強く頷く。
『開門始め!各自前進せよ!!』
団長の声に続き、調査兵団全体が進み始める。