△ スチータス 04
それからは今まで以上に無理やり仕事や訓練に打ち込んだ。
リヴァイとは何度か本部の廊下ですれ違ったが、ペトラと一緒にいることがほとんどだった。
見かけるたびにしっかり気にしている自分がいて、またも呆れてしまう。
「エマ班長、最近はいつにも増して仕事熱心ですね」
「そう見える?」
「いやぁ〜班員としては頼もしい限りですが、疲れているみたいで心配です!」
「そうです、今日は早く寝てください!」
なんていう班員達の気が抜けた日報に目を通しては、それならもっとしっかり仕事をしろ!なんて小突いてしまう。
軽口も聞けるようになった自分の部下たちは可愛い存在だ。
調査兵団在籍年数はバラバラだが、実戦において自分の判断がしっかり出来る兵士達である。
彼らとの会話も息抜きになって心地いい。
朝、昼と訓練をこなす傍ら兵法会議にも出席し、
夜には溜まっていた報告書を全て処理する。
毎日くたくたになるまで働いているはずなのに、夜は寝つきが悪くなってしまった。
やっと眠りにつけたとしても、何故か夢でリヴァイとの思い出を見る事が多くなってしまったのだ。
初めの内こそ嬉々としてそんな夢を楽しんでいたが、起きた後の現実に引き戻される感覚はかなりの疲労感を伴う。
そんなことが続いているので、眠ることすら億劫になってしまったというわけだ。
…リヴァイ…
また、この夢か。
辺り一面眩しくて、何も見えない。
光の中で彼が振り向く。
思わず手を伸ばすと、
彼もまた、いつものように手を握り返してくれて…
……リ、ヴァイ…
自分の声が耳に届いて、目を開ける。
私、今声に出してた…?
重たい頭を起こすが、辺りはまだ寝静まっている。
「はぁ…重症だなぁ」
コップから水を口に運んではまだ暗い窓を見つめて溜息を吐いた。
以前の彼は頭を撫でて微笑んでくれた。
潔癖症なはずなのに、関係が親しくなるとそうしてくれるのだ。
懐かしくて、泣きそうになった。
現実の、私を見ようともしない彼を思い出し胸がぎゅっとつかまれたように切なくなる。
そのままベッドに潜り込んだが、眠っているのか醒めているのか分からない状態で朝を迎えた。
「…エマ班長、昨日は夜通し読書でもしてたんですか?」
「…え?」
班員の一人が声を掛けてくる。
その声を聞いて、ずいっと顔を覗き込んでくるのは新兵の男の子だ。
「ほんとだ、ここ、濃くなってますよ」
自分の目の下をとんとんと指さし、私の目のクマを言っているのだろう。
「うん、ちょっとね。分かったから。顔が近い。」
重い瞼のまま彼をぐいっと押し戻すと、いいじゃないですか、といいながら喜んでいる。
この子は人懐こくて可愛いことは可愛いが、なんだかんだとスキンシップが多いので油断できない。
異性として接してきているのか姉のように見ているのかはっきりしないので、拒絶しようにも出来ないのが本音だ。
「今日は髪留めもいつもと違いますね!」
「そんなのも見てるの?」
「お前、ストーカーかよ…」
私と他の班員が冷ややかに接しても至ってマイペースだ。
ある意味、とても羨ましい。
私の班は総勢8名。
班員には振り分けられた作戦の役割を優先して欲しいが、危ないと感じたら自分の命を何よりも大切にしてほしいと伝えている。
私の班の新兵はこの男の子と女の子の二人。今回の調査が初陣となる。
兵士の割り振りはもちろん班長の意見も取り入れられるが、それ以上に全体のバランスも考慮されるので私が全員指名しているわけではない。
リヴァイ班は特別で、リヴァイ直々に指名しているというが、それが通ってしまうのは彼がそれほど上の存在だという事だ。
初めて会った時より、もっと遠い存在になってしまった。
「班長〜!最終確認をお願いしまーす!」
遠くから叫ばれてはっと我に返る。
班の全体訓練中だった…。
「今行く!」
来週には壁外遠征を控えているので、皆嫌でも気合が入っている。
外界ではアクシデントがつきものだが、なにがあっても班員を導くのが私の仕事だ。
誰も失いたくはない。