短編集 | ナノ


限定で5つのお題 02

2.アナタ限定



「課長、そろそろお昼ですよ」

「…ん、ああ…もうそんな時間か…」

「お気持ちは分かりますが、根を詰めすぎるのは体にも毒ですよ?」

「はいはい、わかったよ。すぐメシに行くから…」

「そう言っておきながらずっと仕事し続けるのが来須課長ですよね…」


じとり、とした視線を上司である男性を睨みつける。
自身の部下であるはずの女性からの鋭い視線を向けられているのに、来須は平然としている。

適当に返事をしつつ、来須はパソコンの画面から視線を動かさない。

こんなやり取りもいつものことで、普段なら彼女が折れているのだが…その日は違った。


「課長、10秒以内に中断しないと電源引っこ抜きますよ?」


「んなっ!?」


先刻まで来須の側にいたはずの彼女がいつの間にか移動しており、その手はコンセントに添えられていた。
流石に電源を抜かれては支障が出てしまう。空返事だった来須も焦りを隠すことができない。


「じゅーう、きゅーう」


「おまっ!そんなことをしたら!」


「はーち、なーな」


「いや、やめろやめろ、まじで、な?」


「ろーく、ごー、よーん…」


「お前、その手を放せ!…いや、わかった!やめるから!昼飯行くから!な!」


「わかればいいんです」



にこりと満足そうに微笑み、彼女はコンセントから手を離す。

観念したように溜息を漏らし、来須はのろのろと立ち上がった。
ゆっくり彼女に歩み寄り、厭味もしっかり付け加えて。


「今日はやたら粘りやがって…」

「課長にはこれくらいが丁度いいんです」

「西島達にもそれくらいでやれよ」

「ヤです」



だって、課長限定ですし



その一言は、心の中でつぶやいた。





ブランシュネージュ


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