短編集 | ナノ


限定で5つのお題 03

3.チイキ限定



「はぁぁぁ……」


思わず笑みがこぼれる。誰がそれを抑えられようか。
駅前にできた新しい洋菓子屋さん。そこの1日限定30個のプリンをようやく、ようやく入手することができたのだから…!

このお店は全国展開している店舗なんだけど、このプリンは桜見店のみの取扱いになっている。

そのため、わたしと同じく入手しようと奮闘する女の子が非常に多く。
この1つを購入するためにわたしは今まで途方もない苦労を重ねてきたのだから。
あるときは日向に放課後の掃除当番を代わってもらい。
またあるとおきはまおちゃんに委員会に出席してもらい…。ありとあらゆる手段を使って、誰よりも早く学校を出れるように努力した。

夕方に行くとなるとやっぱり売り切れていることが多かったけれど、それでも…

「はぁ…諦めないって大切なこことなんだね、うん。本当に…」

何度も何度もトライして、やっと。やっとわたしは念願のプリンを入手したのだ。
小さな牛乳瓶のような容器に入ったわたしの宝物。
何度も何度もそれを眺めては恍惚の吐息が漏れる。

目の前の甘味にわたしはかなり意識を持って行かれていたらしい。
後方から走ってくる存在にまったく注意を払っていなかったのだから。

「あ」

どん、と背中に衝撃を感じてつんのめる。
ぶつかった相手は結構スピードを出していたらしく、だいぶよろめいてしまった。
己や相手を気遣うよりも先に「プリンは?!」と、そっちを気にしてしまったわたしは本当に食い意地が張っていると。心の底から思った。
そんな大切な大切なプリンちゃんは、それはもう無残な姿と化して。路上に飛び散っていた。

おしゃれな小瓶は割れ、当然。中のプリンはアスファルトを彩っている。
あまりにもショッキングすぎて、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
何が起こったのか理解するのにたっぷり5分以上費やし。ようやく現状を把握したわたしは、ぶつかってきたであろう人物をキッと睨み付けた。

「ひいっ!!!」

情けない声を上げながらすくみ上ったのは、クラスメイトの高坂くん。
どうやらわたしはかなり凶悪な表情をしていたらしい。後で聞いた話だと、「目で人を殺せるレベル」だったらしい。
プリンの恨み恐るべし。改めてそう思った。

犯人がクラスメイトだったことに少々驚きはしたものの、そんなことよりもプリンを失った悲しみと恨みのほうが勝ってしまった。

せっかく苦労して買ったのに…。そのことを考えると、やっぱり悲しさのほうが勝ったみたい。
がっくりとうなだれていると、ばつがわるそうに高坂くんはわたしに声かける。


「あー…そのなんだ。悪かったな」


軽い。非常に軽い謝罪。
今度は怒りに支配されてしまいそうだ。

「悪いと思ってるなら、同じのもう一回買ってきてよ…わたしがどれだけ苦労したか…」

「あ?同じの?いいぜ?」

なんなら1ダースほど買い占めてくるわ。と、平然と高坂くんは言い返す。
彼はこのプリンの価値をぜんっぜんわかってない。わたしはそう直感した。
これが中々手に入らないものだということを知らないからこんなことが平然と言えるんだ!
でもわざわざそれを教えてあげる義理もないかもしれない…だってわたしのプリンをこんなにした張本人なんだから。
そんなことを考えながら、じゃあお願いね。とわたしも、こともなさげに依頼した。

ふふふ…せいぜい走り回って苦心するがいいわ。
そんな黒い考えに支配されていたわたしに。数日後、本当に1ダースのプリンを片手に高坂くんは颯爽と現れた。

だけどそれは、また別のお話ということで。。。





ブランシュネージュ


[][]



[ Novel Top // Index ]