限定で5つのお題 04
4.キカン限定
季節の変わり目は製菓業界にとって重要な時期といえるだろう。
「見て見て、春限定・さくら味のチョコレート!ついコンビニで買っちゃったんだー」
目の前でにこやかにほほ笑む女性。
同じ課に配属されている、刑事の同僚だ。
ふわりとしたくせっけが特徴的な西島真澄は、心の中で大きなため息をつく。
そしてひどくまじめな顔つきで、彼女を真正面から見据えた。
「あのな。俺は、夜食を買ってきてくれと頼んだんだ。
今夜も遅い時間までかかる、いわゆる修羅場だ。それはわかっているよな?」
「もちろん!」
「ならなんでその袋の中にはお菓子しか詰まってないんだよ!!!」
「ほら西島くん!!疲れたときは甘いものっていうでしょ?」
でしょでしょ?と得意げな表情を見せる彼女。いわゆる、ドヤ顔というやつである。
それがどうにも癇に障ったらしい。この上なく不快そうに眉をしかめながら、「それでも限度があるだろう」と冷静につっこむ。
「えー…でもこれは今だけしか食べられない、限定ものなのに…」
「知らん」
「今を逃すと来年まで食べられないかもっ!」
「別に構わない」
「またまた西島くんったらー我慢しちゃってーえへへ」
「お前な、いい加減に――っ!!!」
いい加減にしろ、そう叱ろうとした西島だったが。思い切りさえぎられる。
最初に感じたのは、甘味。そしてほんの少しの苦み。まさしく桜の味わい。
「隙あり、なんてね」
いたずらっ子のようににこりとほほ笑む。
どうやら勢いよく口を開けた瞬間に、先刻彼女が言っていたお菓子が放り込まれたようである。
「カリカリするのはよくないよ西島くん。捜査や仕事に焦りは禁物なんだから、ね?」
にこりと彼女は微笑み、もう一つ食べて、と勧めてくる。
正論をぶつけられ、ぐうの音も出せない西島は。悔し紛れに「お菓子でごまかすなよ」と吐き捨て、差し出されたチョコを少々乱暴に奪い取った。
ブランシュネージュ