短編集 | ナノ


守って。5題 04

  




  数日前から、彼の様子がちょっとおかしい。
確かに以前からおかしな一面を持ち合わせた人ではあったけれども…。

それでも、やっぱり最近の彼・平坂 黄泉はおかしい。

少し前までは「私、正義の味方に向いていないんです…」と、呟いてはわたしが慰めていたのに。
それがピタリとやんでしまったのだ。

それ自体はいいことなのかもしれないけど、何故かボイスレコーダーを自分の分身であるかのように大事に扱うようになったのです。


一度だけ触ってみようかと手を伸ばしたことがあったけれど、やめてくださいね、とぴしゃりと拒絶されてしまったのだ。

…いつもは優しい黄泉さんが有無を言わせないオーラをまといながら発したその言葉が気になって気になって。
わたしは胸の奥がちくりと痛んだ、気がした。



「え?御目方教に入る?」

…極めつけはこの発言です。
巷で噂になっている『御目方教』。まさかこの教団に彼が興味を持っているなんて、思いもしなかった。

特に救いを求めているような人じゃなかったから、余計におかしくて。わたしは彼を問い詰めることしかできなかった。


「なんでまたそんな宗教に?」

「私の貫くべき正義がそこにあるからです」

「…少し前まで、御目方は邪悪だーって喚いていたじゃないですか」

「勿論、それは今でもかわりません」

「それ、矛盾してないですか?」

「そんなことはありませんよ?」


―む…。
あくまで理由は言わないつもりでしょうか。

ニコリと微笑みながら黄泉さんはわたしを制する。
その笑みはこれ以上詮索しないでほしいようにも思えて、わたしは少し寂しくなってしまう。
だってそうじゃないですか。好きな人に、信用されていないみたいで。悔しい。


「…そうやって言えばわたしが引き下がると思ってるんですか?」

「…すみません」

「謝らないで下さい!…謝るくらいなら、どうしてなのか理由を教えてほしいです…黄泉さん」

「それは………すみません…」


また謝る。

黄泉さんには黄泉さんの考えがあって、意図的に理由を話さないのは分かっているけれど、理解はできるけれど納得はやはりし辛い。
だけどここでわたしが駄々をこねたところで、オトナな対応をし続ける彼は口を割らないだろうし。


「―…どうしても話せないっていうなら、約束。ひとつだけしてください」

「ふぇ?」


いい歳のオトナがなに可愛らしい声を出してるんだか。
わたしがもっと粘ると構えていたらしい黄泉さんは酷く素っ頓狂な反応を見せた。


「ちゃんと、帰ってきてください。で、帰ってきてわたしに全部話してください。約束ですよ」


これがわたしの精一杯の譲歩。
これ以上は譲る気なんて毛頭ありませんからね、と付け加えて。

黄泉さんは満足そうに微笑んで快諾してくれた。


「約束を反故になんてしませんよ?それは」


――…私の正義に、反しますからね?


Fortune Fate






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正義キャラはどうしてこんなにいとしいのでしょう。


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