短編集 | ナノ


守って。5題 05

  


※男主人公



「御目方様、只今戻りました」

「ありがとう、ご苦労様」


宗教団体としての運営の大半は幹部の船津に任せているのだけれど、細かい雑務や外部への布教活動は彼に一任している。
入信してまだ日が浅いというのに、よく働く彼は、あっという間に教団内での役職を獲得し、本当によくしてくれている。

教団信者の中でも比較的私と年齢が近いからか、何かと側にいて色々な話をしてくれる。私にとっては優しい兄のような存在になっていた。

彼の報告も、勿論私の千里眼日記に既に予知をされている。だからわざわざ彼の口から聞かなくても十分把握をすることは可能だけれど。


「ねぇ、今日はどうだったの?」
「そうですね…ああ、駅前に新しいホットサンドの店が出来まして。
今日の昼飯はそこで買って食べてたんですよ。そしたら、会議に遅れそうになっちまいまして…」


予知された文字なんかじゃなくて、彼の言葉で、彼の声で報告を聞きたいから、いつもこうやって我儘を聞いてもらっているの。




「―それで、会議は無事終わりまして。再来月の第3日曜に御目方教の講演をすることが出来ることになりました」

「あら、そうなの?難しいかもしれないと船津から聞いていたから、心配したのよ?」

「すんません、ご心配をおかけしました。これも、俺の営業トークと愛想のよさがなせる業ですよ、なーんて!」

ケラケラと笑う彼に釣られて、私もなんだか楽しい気持ちになる。
そう。彼とお話をしていると、世界を滅ぼしたいという負の感情が薄れていくような気さえしてしまう。


もっと早くに出会えていれば、良かったかもしれないわね

そうすれば、汚れることもなかったかもしれない


…そんなこと、机上の空論でしかないけれど。



と、そんなことを考えているとふと思い出した。
そういえば最近、信者の慰み者として扱われていない。


少し前までは夜になると何人もの信者がやってきては私の身体をもてあそんでいたというのに。最近はぱたりとやんでしまった。

具体的にはいつからだろう。

―そう、彼が入信してしばらくして、から?


はっ、と彼を見つめる。
先刻までとの視線と違うことに気づいたのか、彼は心配そうな面持ちだ。
いつの間にか日も沈み、灯された蝋燭の灯りがゆらゆらと揺れている。


「―…あなた…」


ひょっとして貴方が護ってくれているの?


と、尋ねようと思って、その続きの言葉を、飲み込んだ。
いくらなんでも自分が陵辱されていることを異性に打ち明けることに繋がるわけだし。そんなことを話すのは、やっぱり躊躇われた。


「御目方様?」


「…いいえ、なんでもないわ。遅くまで有難う。下がってくれて構わないわ」


「はい。ありがとうございます」


それでは、失礼いたします。と一礼し、彼は立ち上がる。
薄ぼんやりとみえるその様子を眺め、私は手元の巻物に視線を落とす。

特に何かがあるわけではないけれど、こまめに見る癖がついてしまったのだ。仕方ない。

…あら、日記に…


『20時43分 御目方様に報告し忘れたことを思い出し、立ち止まる』


彼の、行動が、予知されて。
報告のし忘れ?何かしら?


「―…そうだ、御目方様」



よく透る彼の声が、真直ぐ私の耳に届く。



「俺、貴女をしっかりお護りしますからね。だから、安心してください」

変なこと言ってすんません、おやすみなさい


そう付け加えて、彼は足早に立ち去った。


一人座敷牢に取り残された私は、いきなりのことに思考回路がついていかず。

先刻まで彼が立っていたであろうその場所をぼんやりと眺めることしかできなかった。






「(護る、だなんて簡単に言ってくれるじゃない)」







さっき立てた仮説は正しいのかもしれない。


とくん、と小さく小さく胸が高鳴るのを、私は感じた。



  Fortune Fate





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男主人公やっちゃったお、てへっ(ペロッ


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