短編集 | ナノ


守って。5題 03

  


 彼の体温を確かめるように、指先を這わせる。

長くて、お世辞にも綺麗とは言いがたい指。指紋までも感じるように、大切に大切に触れる。

その流れで必然的にわたしと彼の指は絡み合い、そのまま強く、握りしめる。

すっぽりとわたしの手が隠れてしまうくらい彼の手は大きくて。
わたしが女性で、彼が男性で。根本的に違う生物なんだということを改めて認識させられた。



「西島くん…」

「―二人きりの時くらい、苗字で呼ぶのはやめてくれないかな」



少し困ったように、眉をハの字にして彼が言う。
ごめんね、ついいつものクセで、と一言断ってから、


「…え、と……。ますみ、くん…」

「はい。なんだい?」


…名前を呼んだだけなのに、顔から火が出てしまうそうなくらい、恥ずかしい。
中学生じゃあるまいし、これしきのことでこんなに緊張してしまうなんて。

これ以上のことをしてしまったときどうなってしまうんだろう。体験してみたいような、楽しみはまだ先にとっておきたいような。なんて、考えたりして。


「ははっ、耳までまっかっかだよ?そんなに恥ずかしい?」

けらけらと笑ってのける彼はとても余裕があるように見えて。少しだけ悔しくなった。
ぐぬぬ、とねめつけるような視線を送ると、絡めていた手を自分の方へ引き寄せ、耳元で甘い言葉をひとつ。

同い年のはずなのに、こんなに振り回されてしまう。反則、だ。


「早く慣れないと、だね?」

「善処します…」

「日本人の言う『善処します』は、あまり実現されないみたいだよ?」

「…そんなつもりで言ったんじゃないもん」

「そう?それじゃあ…」


同時に感じる、耳への体温。
ざらざらとした感触と、生暖かい吐息。

彼がわたしの耳を舌で愛撫しているということに気づいたのはそれからたっぷり5秒経過してからだった。

声ならぬ声をあげ、逃げようとするわたしを腕の中に閉じ込めて、真澄くんはいたずらっ子のようにこう呟いた。


―約束。  忘れないでね? と―



Fortune Fate





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西島を動かしているとなぜか黒くなる現象に名前をつけてください。
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