短編集 | ナノ


君と休日3題 02

 




「サンダウンさん、そろそろ休んだらどうですか?」




「…ああ、そう…だな」





もう3時間はぶっ通しでお仕事されていますよ、と彼女に指摘され
私は初めてそれだけの時間が経過していたことに気づかされた。

道理で肩が凝っていると思った。



「あんまり根を詰めすぎると身体に悪いですから、少し休憩しましょ?」


まるで太陽のように暖かく微笑む彼女の誘いに私は乗ることにした。
丁度書類の処分はキリのいいところまで済んだ。直、全てを終わらせることが可能だろう。


「いつもすまないな」


「気にしないで下さい、…はいどうぞ」



手渡されたのはシンプルなマグカップに注がれたいっぱいのコーヒー。

ゆっくりと息を吸えば胸に広がる深い香り。


「…美味いな」


私はあまり口数が多いほうではない。故にあまり思ったことを素直に話すことができないのだが。
こういうときばかりは自分のこんな性格が少し嫌になる。

もっと、言うべき言葉があるのだが…毎回毎回同じようなことを繰り返している…気がして仕方がないのだ。

そう。もっと気の利いた一言があるのだ。
彼女の淹れるコーヒーは確かに美味い。だがいつも同じ味だというわけではない。当然のことだが。

少しずつ違うのだ。なんとなくではあるが、微妙な変化はついている。

だが私はそれを中々言葉に出来ず、いつも同じ表現を多用してしまう。



「(…情け無い限りだ)」



ふぅ、と彼女に気づかれぬよう小さく溜息を漏らす。

そしてこんな陰鬱な気持ちを入れ替えるべく、もう一度コーヒーカップに唇をつける。
こくり、と一口飲み干してふと思いつく名案。

そうか、この方法があったか…。不意に思いついた案を実行すべく、私は彼女の名前を呼ぶ。

「はい、どうしましたか?」

にこにこと微笑みながら此方に歩み寄る彼女の白くて細い腕をぐいと掴み、慣性の法則にしたがって此方へと引き寄せる。

利き腕ではない左腕で抱き寄せることとなるわけだが。ふわりと漂う彼女の爽やかな香りに心臓が高鳴るのを私は感じた。



「いつもすまないな」



情け無い。私のほうが彼女より一回りも歳をくっているというのに、まるで思春期の少年のように言葉が出てこない。
元々口数の多いタチではないことは把握していたが、想像以上だということを再認識せざるを得ない。

だからこそ。行動で示すことに決めたのだ。


右手にはコーヒーカップを。


そして左腕には愛しい君。



仕事の合間に、多忙な私を癒してくれる大切な大切な存在だ。



…表情こそ見えないが、彼女が穏やかに微笑んでいるのが、なんとなく伝わって。
私も緩く口端を満足げに上げることにしたのだった。




     LAL/サンダウン・キッド



Fortune Fate


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年齢差カップルたまりません。
    2012.02.09

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