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落花流水


  ※24→25話 @火星

元木連中将・草壁春樹による復讐劇が、白鳥さんによる熱血クーデターで幕を閉じた。
亡くなったと思っていたヤマダ…ううん、ガイさんやフクベ提督が保護されていたこともあり、
ヴェルターのみんなも嬉しさを隠しきれない様子だった。

丁度年末年始だということもあり、束の間の休息を与えられたわたし達は各々自由に過ごしていた。

わたしはというと、食堂勤務なことも相俟って新年のおせち料理作りに奔走している最中。
勿論普通のおせちじゃない。木連の皆さんによる熱烈リクエスト「ゲキ・ガンおせち料理」だ。
ただこれが結構難しくて、普段と違う工程もあるしでてんやわんや状態になっている。
…せっかく平和な時間を過ごせている訳だし、本当は黒鋼さんともう少し一緒にいたかったんだけど…仕方ないよね。

これもお仕事なんだから、と改めて自分を奮起させて材料を運んでいると、後ろから声をかけられた。

「おや、常盤津さん。おせち作りですか?お疲れさまです」
「白鳥さん…。ありがとうございます!」

くるりと振り返るとそこにいたのは明るい茶色のくせっ毛が特徴的な白鳥九十九さんだった。
さも当然のように材料を持ってくれ、厨房まで運んでくれる。
白鳥さんだけじゃないけど、木連の人は優しい人が本当に多い。
おせち料理を作るにあたって彼らから調理法を教わっているんだけど、本当に優しい。
重いものを持とうとすれば変わってくれるし、高いところのものは進んでとってくれる。
こまめに休憩を挟んでくれるし、教え方も丁寧でわかりやすいし…。

まるで自分がお姫様か何かになったみたい。そう錯覚してもおかしくない程の扱いを受けていた。

「どうですか、料理は。部下達が粗相をしていませんか?」
「いえいえそんな!むしろ良くしていただいてばかりで、いいのかなって思ってます」
「ははっ、いいんですよ。貴女方ヴェルターの皆さんには本当に助けられましたからね」
「人生は助け合いですから、いいんですよ、きっと。
 わたしは非戦闘員なので。お料理とか、こういうことで頑張りますので!」

両こぶしを握り、ガッツポーズをして見せると白鳥さんはにこりと微笑んだ。

「それは心強いことです。…こちらで大丈夫ですか?」
「あ、はい。ありがとうございます。重たかったですよね、ずっと持っていただいて…助かりました」
「お安い御用です。それでは!」

ビッ、と背筋を伸ばして敬礼してみせる彼に深々と頭を下げ、わたしは作業へ戻る。
とにかく作る量がとんでもない量なので、必然的に使用する材料も多くなってしまう。
わたし以外の食堂スタッフと交代で休憩を取りながら野菜の仕込みをしていると、木連の方が声をかけてくれた。

「常盤津さん、もうずっと働きっぱなしですよね」
「えっ?そうです…かね?あんまりわかんないですけど…でも、まだやれますよ!がんばります!」
「いけません!!そう言ってずっと働き詰めです。
 我々も貴女のその好意に甘えすぎていました、本当に申し訳なく思っています…。
 どうかゆっくり休養をとってください。お願いするときはまた我々からお声かけしますから」
「…で、でも…そんな……」
「休んでください。我々は大丈夫ですから!」

白い歯を見せ快活に微笑む彼の言葉を無下にすることはできず、じゃあお言葉に甘えて…とエプロンを外す。

後ろ髪を引かれながらも厨房を後にしたが…今度は逆に何をすればいいのかわからなくなった。
とりあえず私服に着替え、あてもなくふらふらしていると黒鋼さんの姿が見えた。

「黒鋼さんっ」
「…えっ、常盤津さん?
 あれ、厨房でおせち作ってたんじゃ…?」

突然声をかけられたことに一瞬驚いた顔を見せたが、すぐいつもの様子に戻る黒鋼さん。
勢い余って声をかけてしまったものの、何を話すか考えていなかったので、とにかく彼からの質問に答える。

「なんですけど、木連の人から仕事しすぎだから休みなさいって言われて…

 でも何をすればいいかわからなくて、こうしてフラフラしてました」

趣味もないってなんだか情けないですねぇと自虐的に笑うと、黒鋼さんは少し困った顔をした。
「そんなに自分を卑下するもんじゃねぇよ」と付け加えて。
「ごめんなさい、気をつけますね」
そう謝ったけど、自分のことを見てくれているんだと感じて。その嬉しさの方が勝る。

「……ところで、黒鋼さんは何をしていたんですか?」

「おっ、俺は…その、アレだ、えっと……そう!!
 常盤津さんが料理してるって聞いたから、おこぼれを貰おうと思ってよ!」

ころころ表情を変えながら黒鋼さんは言う。
真偽はさておき、慌てる様子が少しおかしく見えて。思わずわたしの頬が緩んだ。
なんだよ、笑うなよ。と彼は少し不満げだったけど、仕方ないと思う。

「でもよ、常盤津さんしばらく休みなんだろ?
 それならちょっと俺に付き合ってくれよ。木連の施設を回ってみたいんだが、1人はさすがに味気なくてよ」
「え……?」
「……どうだい?」

心なしか黒鋼さんの頬は赤く染まってる……ように見えた。
そんな申し出、断る理由なんてどこにもなくて「わたしなんかでよければ…!」とふたつ返事でお受けした。




木連の施設はどこもかしこもお祭りムードで、ゲキ・ガンガー一色といってもおかしくなかった。
ヴェルターの面々もあちこちで楽しんでいたようで、カズマくんなんかは木連の人と肩を組んで盛り上がっていた。

「あれ、常盤津さんに黒鋼さん?なんでふた……あ、いや、なんでもないっす!」

ニヤニヤしつつ「俺は何も見てないぜ」とわざとらしく両目を覆っていた。
その反応がなんだか気恥ずかしくて、黒鋼さんの顔を直視できなかった。

他にも同じようリアクションを取られることが重なり、示し合わせた訳でもなく少し静かな談話室へ腰を落ち着けた。
ご丁寧にコーヒーマシンが置かれていたので2杯用意して彼に渡す。

「常盤津さんすまねぇな。あっちこっちで茶化されちまってよ」

困ったように眉を下げ、黒鋼さんが口を開く。
どうして彼がそんなことを言うのか。困らせたかった訳じゃないのに。

「そ…そんな!わたしの方こそ、一緒にいたせいで変な勘違いされちゃって…」

「なんでそうなるんだよ、俺が誘ったのがきっかけだろ?」

「でも黒鋼さんからのお誘いを受けたのはわたしじゃないですか!」


お互いに声音が険しくなってくる。
冷静になって考えれば、お互い『自分のせい』だと言ってるんだけど。
この時のわたし達はヒートアップしていて、気持ちと言葉にブレーキが効かなくなってきていた。


「…だから、そもそも俺が…」
「じゃあなんで誘うんですか?」
「そんなの君のことが好きだからに、って



 あ 」


しまった。
言葉にはしなくとも、黒鋼さんの表情がそう物語っていた。

…彼の告白を聞き逃してしまうほどわたしも間抜けではなくて。
それでももう一度きちんと言って欲しいという気持ちには勝てなかった。


「…今の、 もう一回言ってくれませんか?
 ーー……聞こえません、でした」


スカートを握り締めながら、なんとか言葉を絞り出す。
ちらりと彼へ視線を向けると、わたしと同じぐらい頬を染めていて。
ぱくぱくと口を開き、言葉を出そうとしては躊躇い。
最後は困ったように微笑みながら黒鋼さんは口を開いた。


「……常盤津さんのことが好きだ。君と一緒に居てぇんだ。

 なぁ、ダメかい?」


わたしの顔を覗き込むようにして彼は尋ねる。
…そんな聞き方ずるい、と思った。
まるでわたしがなんて答えるのか予測してるみたいな、そんな言い方。


「ダメなわけ、ないです。 だって……

 だって、わたしも黒鋼さんの事が好きなんですから。
 …わたしも貴方と一緒に居たいです…!」


ずるいと思いながらも答えはずっと前から決まってる。
ただ、素直な気持ちを言葉にして、紡ぐ。


「………ははっ、そうかい」


黒鋼さんは満足げに目を細めて、「これからよろしくな、紫苑」と小さく呟いた。





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熱血クーデター直後はチャンスだと思いました