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一寸先はわからない


※48、49話 幕間

今までどんな戦場に出ても、劾さんは絶対に大丈夫。
何があっても無事に帰ってきてくれる。無意識にそう思っていた。

傭兵としての戦績を重ねていて。
引き際というものを他の誰よりもわかっている人だと思ったから。

だけどわたしは思い出した。
このSFじみた戦況では、一瞬先に何が起こるかわからないことを。

「……劾さん!」

「紫苑か、どうした?」

格納庫へ帰還する機体を一機一機迎え、ブルーフレームを見つけた瞬間わたしは思わず駆け寄った。
カズマくんにミヒロちゃんがザ・データベースに捕らえられ、凱さんまでもやられてしまった。
こんな状況だ。パイロットもわたし達整備班状況確認やこれからの対策で忙しくなる。

「…劾さん!デブリーフィングのあと、少しでいいです、お時間ください…!

…………お部屋で……待ってます」

これからのことを考えれば余裕なんてない。
わかりきってはいたけれど、こう言わずにはいられなかった。

劾さんは一瞬目を見開いたものの、すぐに見慣れた表情へ戻り
「あぁ、わかった」と、すれ違い様に部屋の合鍵を手渡してくれた。



自分から彼に時間をくださいとお願いしたのに、言うまでもなく整備班の仕事は膨大。
劾さんより先に行けるかと思ったけどそれも難しそうだなと頭の片隅で考えながら、ただひたすら手を動かす。

手を抜くことなく整備を進め、自分の持ち分をなんとか完了させることができた。
班長に無理を言って少しの間抜けさせてもらい、劾さんの部屋へ向かう。

頂いた鍵で中に入るとやっぱり劾さんは既に戻っていた。

「す、すみません、劾さん…!わたしからお願いしたのに遅くなってしまって…!」

「それは構わない。……それで、話とは?」


年末、地球でお茶をしてからなんとなく。だけど劾さんのことを近く感じていた。
多分だけど劾さんもわたしのことを好意的に見てくれてるんだと思う。

じゃないとこうしてお部屋の合鍵を渡さないだろうから。

それでも自分の気持ちは伝えないつもりだった。
そういう状況じゃないし、もどかしいけどこの関係を壊したくもないし。

しばらくはそう思っていた。さっきまでは。
あのガオファイガーは撃墜され、ヴァルホークは敵組織の手中に。

強くて、実戦経験も積んでいた人達がこうも簡単にいなくなってしまったのだ。
理解をしていたつもりだけど、戦場は改めてこういうところなんだと。
そんな場所に自分は身を置いているんだと実感した。

…つまり劾さんがいついなくなってしまってもそれはおかしくないことなんだ。

そのことに気づいた瞬間、彼に気持ちを伝えず会えなくなってしまうのは嫌だし…怖かった。


「劾さんっ。

あの、こんな時にこういうことを言うのはどうかと思ったんですけど。
…だけどどうしても劾さんに伝えたくて…その…」


はー、と一度長く息を吐いてゆっくり吸い込む。
心を落ち着けて、彼への気持ちをゆっくり確認する。

それがそのまま勇気に繋がって、自然に言葉があふれてきた。

「わたしは…劾さんのことが好きです…!

まだ日は浅いけど、劾さんの生き方は素敵だと思いますし。
お話をしたり、一緒に居られると凄く嬉しくて…。

自分勝手なのは重々承知しています。
それでもこの気持ちをどうしても伝えたかったんです」

思わず両こぶしに力が入り、わたしは真っ直ぐに彼を見据えた。

「劾さん   大好きです」

「…………」


滅多なことで表情を変えない劾さんが少しだけ目を丸くしたように見えた。

小さく「そうか」と呟いて劾さんは立ち上がる。
そのままゆっくり歩を進め、見上げなければならない程の距離に。

「あ、あの…劾、さん?」

勿論急かすつもりなんてない。
だけどさすがに何も言わずこうして距離を詰められるのは心臓に悪くて。
思わず意図を確認するように彼の名前を呼んでしまった。

声音でなんとなく察してくれたのか、劾さんは少し困ったように口を開く。

「……いや、すまない


先を越されたと思ってな」


「……え…きゃっ! ー……が、がいさ……」


言葉の意味を反芻するよりも早く刺激がやってきた。
厚くて堅い胸板の感触と、汗と煙草の香り。

劾さんがわたしのことを抱きしめている。
その行動の意味はどうなのか。好意的に受け止めていいのだろうか。
いずれにせよ唐突すぎてわたしの思考回路はもう麻痺してしまっていた。

身じろぐこともできず、ただされるがままになっていると頭上から優しい声が降ってくる。


「……オレにこうされるのは…嫌か?」

「いえ……あの、……びっくり、しちゃって……、だから……

  ……いやじゃ、ないです……」

「……そうか」


いいのかな、と思いながら恐る恐る劾さんの背中に腕を回す。
すると心なしか抱きしめられる力がさっきより少しだけ強くなったように感じた。



「オレは傭兵だ。依頼があればどんな戦場にも赴く。それはこれからも変わらないだろう。

還る場所や落ち着く場所など必要ないと思っていたが……、オレにとって紫苑は必要で大切な存在になったようでな


紫苑には オレの傍に居て欲しい」


オレンジ色のサングラス越しに見つめた劾さんの瞳は、今まで見たことがないほど真剣で。

なによりもそんな情熱的にわたしのことを思っていてくれたとは考えもしなくて。


「……はいっ…!!!」

とにかくもう嬉しくて嬉しくて。
自分にできる一番の笑顔で大きく頷くことしかできなかった。


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眠いと甘い話が書けるね!