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天使のデザート


※46話

これから重要な戦いへ赴く我々ノイ・ヴェルター一同は僅かな休暇を各々満喫していた。
恐らくこれが最後の休みになると思う。だからこそ休めるときにしっかり休もう。
だけどいざ休んでいいよと言われると何をしようか中々思いつくことができなくて、
整備班仲間同士で何をするだのどこへいくだのわいわい盛り上がっていた。

「すまない、紫苑はいるか?」

そんなわたし達の前に姿を現したのは叢雲劾さん。
最近部隊に編入されたサーペントテールのリーダーだ。
まだ日は浅いけれど、機体調整のことでよく話しかけてくれる。
だからてっきり整備の件だと思って、背筋を伸ばす。

「はいっ、ここにいます劾さん、どうされましたか?
ブルーフレームの調整、甘かったですか?…やだ、ごめんなさい…すぐ直します

…劾さん、どのパーツがおかしいですか?動きが悪いのはどの部分ですか?」

劾さんに絶対迷惑をかけたくなくて、思わず食い気味に尋ねてしまった。
…けど、どうやら今回はその要件ではないらしい。


「…まだ何も言っていない。機体のことじゃない。
少しで構わないが…時間はあるか?」


呆然。
なぜそんなことを突然言い出したのか理解できなかったけれど、断る理由なんてなかった。

「はい、大丈夫ですよ。どうしたんですか?」

「オレに付き合ってくれないか」


…本当に彼の言い出すことは理解できなかった。



休暇といっても本当に僅かな時間。
補給のため立ち寄っていた町でささやかな買い物や飲食店を何軒か巡るくらいしかできなかった。

そんな貴重な時間を、劾さんはわたしなんかの為に使ってくれている。


戦争をしているのが嘘に思える程穏やかな時間の流れる喫茶店の片隅で
優雅にコーヒーを飲む劾さんを見つめそう思う。
ソーサーからカップを取る仕草も、それを口元へ運ぶ所作も全部がかっこよすぎて…。
自分はこんな素敵すぎる人と一緒にいていいのかなとそんなことばかり考えてしまう。

誰が見てるかとかわからないけど、変な女を連れている男だと認識されないようにしないとと思い
彼を見習ってお上品に、と心がけて紅茶に口をつける。林檎とカモミールの甘味がたまらないハーブティが染み渡る。

一口飲むだけで優しい気持ちになってしまう。
ハーブティって飲みにくいのかなぁと思っていたけど、これにしてよかった。
…普段は紅茶ばっかり飲むのに、少しでも劾さんから女らしいと感じてもらいたくて見栄をはってしまったのだ。
結果として凄く美味しかったからよかったんだけど…。

「美味しそうに飲むんだな」

いつの間にか視線をわたしに向けていたらしい劾さんは、ふっと目を細めながら話す。
完全に気が抜けていたわたしは思わず抜けた声が出てしまい、せっかく気をつけていた”お上品な仕草”がパァに。

「えっと……思っていたよりも、ハーブティが美味しくて…それで…」

「ほう」


あああもうわたしの馬鹿…。そんなこと言ったら見栄張って注文したってバレちゃうかもしれないのに…
いや別にバレてもどうってことないかもしれないけど、変に思われたくないし…もう…。

物凄く恥ずかしくなって俯いていると、カチャリと小さく食器の音が。
なんだろうと顔をあげると、わたしのティーカップを劾さんが手に取り、口をつけた。

「…甘いが…確かに美味いな」

何事もなかったようにソーサーへカップを戻す劾さん。
劾さん、今のはいわゆる、間接キスにあたるのでは?
どこに彼が口をつけたのか混乱しすぎてわからないけれど、わかんないけど…!

もうわたしには彼が何を考えてこんな行動をとっているのかまったくわからなかった。
わから無さ過ぎて、わたしが取れたのはたった一つ。本人に直接確認することしかできなかった。

「が…劾さん、あの、どうしてわたしを誘ったんですか?」

なけなしの勇気を振り絞ってそう尋ねる。
当の劾さんはじっとわたしを見つめ、当たり前のように答えた。


「紫苑と過ごしたかったからだが」

「…え?」

「オレや、他の隊員の機体をしっかり整備する紫苑から目が離せなかった。
勿論技術や知識はまだ未熟だが、それを補おうとする努力や向上心にオレは惹かれた。

…恐らく次の出撃以降こんな時間をとることはできないだろう。

だからこそオレは紫苑と共に居たいと思った。

…駄目か?」


「だ……」

「だ?」

「…だめじゃ、…ないです…」

「そうか」


そう言って劾さんはカップに残るコーヒーを飲み干す。
浮かべる表情はさっきよりも穏やかで柔らかくて。

そんな顔して、あんなに褒められたら、わたしは本当にどうにかなってしまいそう。


「…そろそろ時間だな」


ちらりと時計を確認すると短い、本当に短い休暇も終わりを告げようとしていて。
名残惜しさを感じつつ、その言葉をハーブティと一緒に飲み干した。

なんとなくだけど、一緒に居たいのはわたしだけじゃないかも。
なんてそんな風に思えたから。



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『優しさにつつまれたなら』の前かもしれない
テキスト振り返ったんですけど、叢雲劾正式加入するの遅すぎ…