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鳥籠姫の救出に成功し、また上司サイドも氏氏と敵の癒着に関する証拠を抑えることに成功したという。
氏氏は事情確認のため警察へ連れて行かれ、今後どうなるかは取り調べの結果によって変わってくるそうだ。

鳥籠姫は相変わらず人形のように、事務所応接室のソファに腰掛けている。
喜ぶこともなく、安堵の様子もなく。それでいて俺たちに怯える様子もなく。全てに対し無反応だった。

彼女の待遇をどうするのか。しばらくは所内で保護し、まずは長年の軟禁生活で受けた心の傷を癒してもらおうという考えだ。

「それであれば、専門機関に委託するべきではないでしょうか?」

「そうしたいのは山々だが…。正直、まだ安心できない状況なんだ。
 恐らく氏氏は鳥籠姫が連れ去られたことに気づいているだろう。

 で、あれば敵が彼女を奪還すべく襲ってくる可能性は大いにある」

「…それならば我々の目の届くところで保護したほうが安全だということですね」

「そういうことだ。理解が早くて助かるよ。
 そこで、だ。ツクヨミ、君に鳥籠姫の護衛を頼みたい」

「…は、い?自分ですか??」

「ああ。君が彼女を救出したのだから、きっと君になら心を開いてくれるのではないかと思ってな」


思わず顔が固まってしまった。
救出時も、この事務所に連れてきた時も、全くの無表情だったのに。
他の人よりも少し長く一緒にいたというだけで、そう上手くいくだろうか。

事務所内にもっと適任のヒーローがいると思うのだが…。
しかし内心、ここで手柄を手放してしまうのはいかがなものか。そうも感じていた。

今回の任務を全てこなしたとき、本当の意味で俺は変われるのではないか。

それならばここで諦めるべきではない。


「わかりました。是非やらせてください」

―…これでもう、後には引けないな。
俺は自分の口から「やる」といったのだから。



+++   +++   +++   +++


上司との面談が終わり、応接室へ戻る。
彼女は面談前と全く同じ姿のままそこに座っていた。

「遅くなってすまない。…喉、乾いていないか?」

「……」

予想はしていたが、なんの反応も見受けられない。
参った…もともとこういうことは不得手なのだが…どうすればいいのだろうか。
こんなことなら学生時代、もっとクラスメイトに話を聞くべきだった。
―…特に、上成、峰田あたりから…。

頭を悩ませていると、いつの間にかそこにいたらしい他のヒーローが「ツクヨミ、まずきちんと自己紹介しないとじゃないか?」とアドバイスをくれた。

成程。
そういえば屋敷の中で名乗っただけだったか。
それにこれからの待遇についても説明をしたほうがいいだろう。

名提案をしてくれた彼に厚く礼を言い、俺は彼女に向き直る。


「改めて…自己紹介が遅くなって本当にすまない。
 俺は漆黒ヒーロー・ツクヨミ。…いや、常闇踏陰だ。
 この事務所のサイドキックをしている。歳は23。

 いきなりこんなところに連れてきて、困惑していると思う。
 だが、これからは俺たちヒーローが貴女のことを守る。だから安心して欲しい。
 当面は俺が貴女の護衛を務めることになった。これからよろしく頼む。

 そこで、頼みがあるんだ。
 …貴女の名前を教えてくれないか?」


彼女のぼんやりとした瞳を正面から見据え、ゆっくりと、丁寧に。
一言一句しっかり届けるように言葉を紡ぐ。


「頼む。鳥籠姫という通称ではなく、きちんと名前を呼びたいんだ」


お願いだ、と思わず頭を下げる。
どうすればいいのかわからず、誠意を見せなければと思った結果の行動だった。

しかしそれでも少しは彼女に伝わったらしく。
微かな声が、俺の耳に届いてきた。



「……ぁ……っ……


 ―……氏………名……」


囁きとも取れるような小さな小さな声。
それでもしっかりと俺の耳には届いてきた。

彼女の心の壁を少し崩せただろうか。
確かな手応えを感じ、思わず顔が綻んだのだった。


2017.05.04
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