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最終話




「…ふみかげ、くん…」

名のきょとんとした顔を見て改めて気がついた。
俺が今何を口走ったのかを。


「―ッ  いきなり、すまない…… その、ゆっくりでいい、考えてくれないか?」


タイミングがずれて気恥ずかしさがやってくる。
いや、名にこの気持ちを伝えたい欲求はずっとあった。
いつかは…いや、せめてこのごたごたが落ち着いてから話そうとは思っていた。

しかしそんな予定も全て帳消しになってしまうほどに、彼女の儚い佇まいは俺の衝動を揺さぶったのだ。

一時も待たせたくはない、ただそう強く思った故の行動。

だがそれは俺のエゴでしかない。
これ以上同じ空間にいると、名の答えを催促しかねないと判断し、無言で立ち上がる。
背を向け部屋を出ようとすると、くい、と袖を掴まれる。

決して強い力ではないが、抗うことができない。


ゆっくりと振り返ると、両目に大粒の涙を浮かべた名の姿。
思わず目を見開いてしまう。俺が泣かせてしまったのか?


「ち…違うの…悲しくて泣いてるんじゃないの…。
 う、嬉しくて…… そう言ってもらえて、凄く、うれしく、て…びっくりして…

 ふみかげくん


 …わたしも… わたしも、貴方と、ずっとずっと一緒にいたい…



   わたしを、 あなたのお嫁さんにしてください」



キラキラと真珠のような涙を両目に浮かべながら名は優しく微笑む。


勿論だと短く告げて、彼女を抱き寄せた。





+++   +++   +++



それからしばらく忙しい日が続いた。

上司が、今回の作戦を俺が自ら立案し実行したということにしてくれたため
世間にも漆黒ヒーロー・ツクヨミの手柄として公表されたのだ。


そのことによりマスコミによる取材殺到、事後処理や書類提出など…本来のヒーロー活動に支障をきたすほどの忙しさだ。


多忙な日が続いたが、時間を見つけて上司に結婚の報告を入れた。
相手があの鳥籠姫であることも伝えると、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ、祝いの言葉をかけられる。

「忙しいとは思うが、スピーチは任せてくれよ」

同棲していた話も盛り込んで構わないか?とからかうように付け加えられた。

…勘弁してくださいよと返すと、考えておくとニヤリと笑う。
かならず事前に原稿の確認をしよう。この時の俺はそう思った。



事件の事後処理等に加え、結婚に関する諸般手続きの確認・準備が全て片付いたのは2週間後だった。

しばらくゆっくりするといい、と与えられた7日間の休暇。
俺はこの間になんとしてもやりたいことがあった。


「名、明日から休暇が取れた。だから、ここに行かないか」

そう言って携帯電話の画面を彼女に提示する。
名はきょとんとした面持ちのまま画面を覗き込んで、花が綻ぶような笑顔を見せた。

しかしすぐにその表情は曇ってしまう。その理由を尋ねると、”こんな高価なもの、わたしには勿体無いよ”とのことだ。

そんなことを気にしなくていいんだが…。


「とりあえず明日行こう。俺が名に贈りたいんだ、お前に似合うものを」


納得はしていないようだが、理解はしてくれたらしく。”わかった”と名は短く呟いた。






若干乗り気ではない名をなんとかなだめて訪れたその店舗は、宝石店によくある煌びやかな内装ではなく。
上品で、それでいて落ち着いた雰囲気のある内装だった。

同じようなことを名も感じたらしく、思わず2人で視線を合わせて微笑んだ。


陳列されている指輪は男の俺にはどれも同じものに見えてしまうのだが、彼女はそうでもないらしく。
きらきらとした瞳で店舗を歩き始めた。

婚約指輪と結婚指輪の違いもあまり理解していなかったのだが、ざっと見た限り前者が比較的装飾が豪華で、後者はシンプルな造りになっているものが多かった。

シンプルな造りになっている理由はやはり毎日身に付けるからなのか。



…白金の方が名の白い肌によく映えそうだ。

そんなことを考えていると、くいくいと袖を掴まれる。
どうした?と視線だけで問いかけると遠慮がちに彼女は申し出た。


「踏陰くん、婚約と結婚と、指輪ふたつじゃないと、だめかな?」



一瞬言っている意味が理解できず、ほうけた表情のみで応えてしまうと、
名はおずおずと展示された一角を指さした。


「…あれが欲しいな。ぴったりだと思うの」


そこに展示されていたのは鳥籠をモチーフにした飾りだった。
3センチ程の大きさだが白金で作られており、中にはダイヤモンドで作られた小鳥が入っている。


「鳥籠のペンダントトップ。鎖をつければネックレスになるんだよ」


恐らく”なんに使うためのものなんだ”という心の声が顔に表れていたのだろう。



「…籠の鳥なんて言われていたわたしがこのモチーフなんて、って思った?

 わたしを籠から出してくれたのは踏陰くんだから。
 だから、一生忘れたくないし。ずっとその思い出と一緒に生きていきたいから」



不意に手を握られる。
俺のものより一回り小さな彼女の手。

視線がぶつかるとまたにこりと微笑んで、”一生一緒にいようね”と吐息だけで呟いた。










2017.09.10
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