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「……はい、そうです。港の廃倉庫です。
 場所は北エリア第3倉庫の隣です。…わかりました、お願いします」

通話終了ボタンを押し、黒影で拘束している眼下の敵を見つめる。

つい先ほどまで拳を交えていたアクスは既に意識を手放した状態だ。
プロヒーローから長いあいだ狙われていただけあって、やはりかなりの手練だった。

個性については事前に知ってはいたものの、それでも実際目の前にするのとでは大きく異なり。
無傷で捉えることは流石に難しかった。

勝利の決め手は俺の個性に関する情報を持ち合わせていなかったということだろう。

アクスの死角に黒影を忍ばせ、一気に気絶を狙う奇襲攻撃。
想定していた以上に決まり、ダウンを取ることができたのだ。


…応援が来る前にまず名を見つけなければ…。

気絶しているとはいえ、他のヒーローが到着するまでに覚醒されても困る。
普通のロープではアクスの個性で切られてしまうだろう。

何か代わりになるものはないかと周囲を物色するとちょうどいい長さの鎖が目に入る。これを使うか。

幾重にも鎖を巻き、しっかりと拘束する。
いくら気絶しているとはいえ、敵を1人残しておくのはいかがなものかと思ったが…やはり名のことが気になった。


俺が思っていた以上にこの廃倉庫は広く、単独で探すには中々骨が折れた。


「…名………どこだ…!」


あまり大きな声を出すことはできない。アクスの意識が戻ってしまってはいけない。
しかしそれでも俺は彼女の名前を呼ぶことをやめられなかった。


『踏陰!アソコ、扉ガ見エルゾ!』

「…でかした!」


黒影が俺の左側を指差してそう叫ぶ。暗闇の中ではやはりこいつがいてくれると心強い。
言われた方向へ視線を移すと確かに扉のようなものが見えた。

急いでそこへ向かい、ドアノブを掴む。鍵はかかっておらず、勢いよく扉をあけた。

…埃とカビの臭いが充満した室内、そこの中心に名がいた。


「名!!!」


俺の声が室内に響く。
それに反応したのか、彼女の肩がぴくりと揺れた。

緩慢な動作で頭を上げ、瞳を開く。


「……ふみかげ…くん…?」


「―名ッ…!」



彼女の両目に俺の姿が映って、俺の名前を呼んでくれた瞬間。抑えていた感情が爆発したように、俺は彼女をきつく抱きしめた。
踏陰くん、苦しいよと。そんな言葉が聞こえたので少しだけ力を抜くことにした。

彼女の両手へ視線を落とすと、手錠で拘束されている。…俺としたことが…優先すべきは彼女を解放することだというのに。


「名、すまない。すぐに手錠を外そう。じっとしていてくれ…いいな。
 ――、よし…外れた。もう大丈夫だ 俺もいるし、じきにヒーローも来る。
 お前を誘拐した敵は、俺が倒した。このあと拘束されるだろう」


「あ、ありがと…踏陰くん  こ……こわ、かった……
 わたし……わたし……」


解放されたことで麻痺した感覚が戻ってきたのか、誘拐された恐怖が襲ってきたらしい。
ガタガタと体を震わせ、名は自分自身の体を抱きしめるようにうずくまる。

俺はそんな彼女の背中を優しく撫で、抱き寄せることしかできなかった。









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2017.08.24
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