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肉弾戦中心の戦闘を得手とする敵・アクス。

報告されている個性は『針』
自身の先端部分を針のように鋭くすることができるという。

この『先端部分』というものがキモのようで、髪の毛や爪、歯は勿論。
体毛や指、鼻など文字通り体の突起部分を針に変えることができるという。

そのため髪の毛や爪、歯という大振りの攻撃手段にばかり注意を払いがちで、想定外の部分からの奇襲にヒーローは苦戦を強いられている。

数日前も別事務所のヒーローがアクス確保に乗り出し、結構大掛かりな戦闘が行われたが、捕縛することは叶わなかった。
しかしかなりのダメージをアクスに与えることに成功したとのことだったが…恐らくその傷を癒すため氏氏を訪ねたのだろう。

来客者として名の歌を聴き、傷を癒して金を払う。その契約のはずだったが、名がアクスを敵だと認識してしまい誘拐した…恐らくそんなところだろう。



いつの間にか太陽は沈み、俺は夜闇を駆ける。
黒影を纏い、今の俺にできる最高速度を保ったまま。

名が連れられてどれだけの時間が経過したのかは分からない。
俺の記憶が確かであれば、アクスはまだ殺人を犯したことはないはずだ。
しかし、自分の顔と名前を名に知られてしまった状態だ。今までのケースが通用するとはあまり考えられない。

頼む、無事でいてくれ…!


今の俺にはそう願うことしかできず、両手に力を込めた。




+++   +++   +++



氏氏から聞き出した港は不気味なほどに静寂が訪れていて、俺の衣擦れの音だけが響いているようにさえ感じられた。

港にいるとは聞いていたが、アクスの隠れ場所がどこにあるかまでは彼も知らないようだった。
一刻の余裕もないのだが…仕方ない。俺は手当たり次第にあちこちの倉庫を虱つぶしに探索することを決めた。

1つ、2つ、3つと回っていると、異様な空気のする倉庫を発見した。
長い間使われていないようで、外壁は剥がれ、月明かりに見えるシャッターはあちこちサビが見えた。

鏡もあちこち割られていて、内部も色々なもので溢れかえっていた。

しかしそれ以前にこの場所の雰囲気が他の倉庫と全く異なっていたのだ。
ここにいるだけで重圧を感じるというか、息苦しくなるというか。

俺はこれがアクスから向けられた殺気だと判断し、即座に戦闘態勢をとる。
月が出ているとはいえ、ほぼ灯りのない空間だ。黒影を纏っているとはいえ、不意打ちを受けるのは避けたい。


じりじりと倉庫内部へ歩を進め、屋内の中心まで来た瞬間。突如足元が激しく揺れ、黒い影が俺を襲う。


まるで土竜のように両手の指を鋭くし、床下から襲撃してきたのだ。
警戒をしていなかった訳ではないが、流石に一瞬反応が遅れ、後手に回ってしまう。
後方へ跳び、その鋭い指から繰り出される突きをすんでのところで躱す。


「…貴様がアクスだな。 氏邸から女性を連れ去っただろう。どこにいる。
 正直に答え、彼女を自由にすれば。無傷で捕縛してやろう」


眼前にいる長身の男は鋭い眼光を俺にぶつける。
そしてしゃがれ気味の低音を投げかけた。


「ヒーローか……。

 お前からのその提案を、おとなしく受け入れると本当に思っているのか?」


「そうか…



 では、覚悟してもらう」


分かってはいたが、交渉は決裂。
身を低くし、俺は構える。

眼前の敵も同じく腰を落とし、両手の指先を鋭い針へと変化させた。


力強く地面を蹴り、先手を取るため俺は前へ出る。




名を助けるのは、俺の役目だ。




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2017.08.19
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