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この頃君をほっとけない。

夏休みだから、と言って、ゼンは例の女の子を含む数名で海へと繰り出して行った。
私には夏休みなんて当然のように存在しないので、関係ない話だけど。
7月の後半になった今日は、うっとうしいほどの晴れやかな夏日だ。
日曜日だから出勤はしないとはいえ、溜まっていた家事は山ほどある。
なにしろ、春から途切れる気配のないいじめを受けているため、洗濯物や掃除するものが積み上がっていくのだ。
それに加えて日曜日にはほとんど毎週のペースでゼンがやってくるので、片付ける暇が文字通りない、というわけだ。
積まれている洗濯物やなにやらの山は当然のごとくゼンに見られているが、それを目にしてもゼンはなにも言わない。
いわく、「おれの部屋、比べらんねーくらい汚ねーから。」らしい。
それを聞いた私ももう、散らかっている部屋を隠す気はなかった。

好きな子を好きだと自覚したらしいゼンは、すっきりしたようだった。
そうなる後押しをしたのは私だったわけだけど、これでよかったのだろうかとも思う。
ゼンはきっと、いとも簡単にその子を落とすだろう、と思う。
そうしたら、毎週日曜日に荒っぽくドアをノックする音が聞こえることも少なくなるだろう。
あるいは、さっぱりと聞こえなくなるかもしれない。
私は日曜日、何にも縛られずに(仕事がなければ)有意義な休日を過ごすことになる。
こうして洗濯物をまとめて、洗い物を片付けて、ついでにスニーカーやなんかも風呂場でごしごし洗ったりして。
戸棚の整理もしてみたり。
と言っても、しがない一人暮らしだからたいしてごちゃついてもいないけれど。
アルコールタオルをフローリングワイパーに取り付けて、隅々までかける。
暑いけれどまだクーラーは我慢して、部屋中の窓を開けて網戸にしてみた。
入ってくる風はもれなく生ぬるくて、私は暑いのも寒いのも大嫌いだなと自覚する。
すると、ふいにゼンの言葉が浮かんできた。

「好きは、好きと大好きがあってもいいけど、嫌いはそれ以上嫌いって、わざわざ言わなくてもいいと思うんだよな。大嫌いって、口に出すだけで自分も嫌な気分になんねー?」

夏と冬。
私はこれらの季節を、大嫌いと定義するほど嫌いだろうか。
せいぜい嫌い、くらいにとどまらせてやってもいいのではないか。
そんなことを考えた。

まだ時間も早いし、今かけている洗濯物があがったらカーテンもみんな洗濯してしまおうか。
ついでに布団カバーやシーツも剥がそう。
今日中に洗濯しきれるか分からないが、せっかくの休日だし、来週の日曜日になればまたゼンが来るだろう。
やれやれと思いながら人をダメにするソファにコロコロをかける。
これの正式名称ってなんなんだろう。
絶対全人類「コロコロ」って呼んでる。
くだらないことを思って、一回分のコロコロを剥がすと、明らかに私のものではないうねった黒髪がたくさんついていた。
ゼン…その場にいなくても強烈な存在感だ。
しかし、彼女ができればこうした悩みもなくなるだろう。

ふと、キッチン上の戸棚を開けるとせんべいやらクッキーやらがすっかりなくなっていることに気がついた。
今日は買出しもしてしまおうか。
ゼンが来るとほとんどのお菓子が姿を消してしまうから、気がついた時に補充しておかないといけない。
そのうち食パンや白米なんていう食料にまで手を出されたらたまったもんじゃないし。
インスタントコーヒーやティーバックなんかも、買い足さないといけないんじゃない?
最近やけに減りが早いし。

洗濯物第一弾があがるのをゴロゴロしながら待って、読書をする。
久しぶりにこの本を開いた気がする。
ゼンの勉強を見てやっている間にでも読もうかと思っていたのに、隙をみてはサボろうとするから読む暇もなかった。
こう考えると、家庭教師代くらいもらってもいいんじゃないかと思う。
ゼン、バイトとかしているのかしら。
お金を請求するつもりはないけれど、どうやって日頃暮らしているのかが気になった。
外食が多そうな発言は、会話の随所に見られる。
けれど、どこからそのお金が出ているのかがわからない。
四六時中誰かと遊んでいるように見えるし、日曜日は私の家にいる。
深夜にバイトでもしているのなら、いつ寝ているのだろう。

というより、私はさっきから何度頭を振ってもゼンのことばかり考えている気がする。
だって、弟みたいでつい心配してしまう。
ちゃんと食べているかとか、この前叩き込んでやった期末試験は無事突破したのかとか、お金はちゃんとあるのかとか、そういうことばかりを。
ゼンは長男だと言っていた気がするが、それにしては弟みたいだ。
一人っ子の私はなぜ姉のようにこんなに世話を焼いてやらないといけないんだ。
もう、考えるのはやめよう。
せっかくのなにもない休日、楽しまないと損だろう。

ああ、でも、ゼンは好きな子とこのまま海で楽しく過ごして、そのあとはどうなるのだろう。
付き合ったら、もう私のくだらない仕事の愚痴やなにやらを、聞いてくれることはなくなるのだろうか。
そうだとしたら、少しだけ、失恋してしまえとも思ってしまう。

いやいや、そんなのひどすぎる。


いや、でも。



いやいや。

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