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リヴァイとエレン、ミカサが合流した後、
調査兵団はすぐに移動を開始した。
カラネス区へ帰還すべく
小規模ながらも陣形を展開。
班長と殆どの班員を失ったアルミンは、
ジャンが所属する班の後ろについていたが
リヴァイが此方に近付いてきて、
「俺の後ろにつけ」との指示を受けたので
大人しくそれに従う。




「どうした、その頭」



彼女の頭に巻かれた包帯を見て
リヴァイが眉を顰めると、
アルミンは今思い出したように答える。




「あ、これは…女型と対峙した時に
馬ごと投げ飛ばされて額を切りました」




リヴァイの背中を追ってきたら、
いつの間にかエルヴィンの
すぐ後ろまで来ていた。




「…女型と?やり合ったのか?」




「…少しだけ。でも、何も出来ませんでした。
時間を稼ごうと思ったんですが…」




「…いや、充分だ。
お前らや、後列の班が命を賭して
戦ってくれたお陰で
女型を一時拘束することに成功した。
ありがとうな」




礼を言われるようなことは何も出来ていない。
ネス班長は殺されてしまったし、
自分は女型に一太刀も
食らわせることが出来なかった。

暗く沈んだ表情で一歩後ろを駆ける
アルミンを見て、リヴァイは押し黙る。



特別作戦班…通称、リヴァイ班。
メンバーは、巨人化能力を有するエレン、
そしてリヴァイ自らが指名した
優秀な兵士4名。
エルド、グンタ、オルオ、ペトラの4名だ。


彼らは女型の巨人の手にかかり、
生きて壁の中に帰ることが叶わなかった。

自分を慕い、ついてきてくれた
大切な4人を一遍に失い、
この時リヴァイは精神的に
かなり参っていたが、
アルミンが生きていてくれたので
どうにか冷静さを保つことが出来た。
お前が生きていたことが、唯一の希望だと
アルミンの横顔を眺めながら胸の内で告げる。





帰路では巨人の接近が少なく、
大きな被害は受けなかった。
ウォール・ローゼの外壁が見えてきた頃には、
既に日は高く昇っていた。







◇◆◇◆◇◆





出発から僅か数時間で帰還した調査兵団に対し
民衆は冷ややかな目を向けた。
今朝より大分人数が減り、
負傷兵も多数いることに気付くと、
税金の無駄遣いだ、とぼやく声も多数耳に入る。

住民から金を搾り取るためだけの無能な輩。
わざわざ金をかけて
巨人の胃袋に入りに行く奇人変人の集まり。


辛辣な言葉はただでさえ疲弊しきっている兵士達を
更に追い詰める。


下を向いて黙々と本部を目指す途中、
ペトラの父親と思われる男性が
リヴァイの前に立ちはだかった。




「!」




アルミンは咄嗟に
男に道を開けるよう注意しようとしたが、
それはリヴァイに片手で制される。




「娘が世話になってます!ペトラの父です!
娘に見つかる前に話してぇことが…」




大分距離を詰めて話し掛けてくる父親を
振り払ったりはせず、
リヴァイは黙って話を聞いてやっている。
感情を殺したその顔を見て
アルミンはいたたまれなくなったが、
黙って彼の話が終わるのを待つ外なかった。
話を聞いていると、
生前ペトラは家族に度々手紙を書いていたようだ。
リヴァイに指名されたことを誇りに思うと、
彼にずっとついていくつもりだと、
その兵士としての喜びを綴った内容に
ペトラの意志の強さが窺える。

もしかすると、ペトラはリヴァイのことを
好きだったのかもしれない、と思い
アルミンの胸は軋んだ音を立てる。
それはきっと彼女だけではない。
誰よりも強く、そして優しいリヴァイに
恋愛感情を抱いてしまう女兵士は
少なくないだろう。
以前ハンジも、相変わらずモテモテで、とか
なんとか言っていたような気がする。
古城で彼と共同生活をしていたペトラなら、
人一倍その想いは膨れ上がっていたはずだ。




「まぁ…父親としてはですなぁ、
嫁に出すにはまだ早ぇかなって思うワケです…」




それにも関わらず、ペトラは
リヴァイを尋ねたアルミンを邪険に扱うことはせず
何も言わず、何も聞かずに
背中を押してくれたのだ。
リヴァイに紅茶を届けてくれた。
エレンに内緒で彼の執務室まで案内してくれた。
自らの恋心に蓋をして。




(ペトラさん…)




記憶の中で花のように笑うペトラに
自分はどう映っていたのだろう。
面倒見の良い彼女のことだから、
純粋に応援してくれていたのかもしれないし、
もしかしたら
好きな人と他の誰かが結ばれるのを見て
傷付いていたのかもしれない。

今となっては、
真相を知る術もないのだけれど。




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