3


お通夜のようなどんよりとした空気を背負い
兵士達は調査兵団本部に到着した。
厩舎に馬を繋ぐと、
アルミンはすぐにエルヴィンの元へと向かった。

女型の巨人について、
報告したいことがあるのだ。

足早に執務室を目指すアルミンを見掛けて
ジャンは呼び止めようとしたが、
彼女の背を追うリヴァイの姿が目に入り
慌てて口を閉ざす。




「アルミン」




名を呼ばれて振り向くと、
そこには此方を見下ろすリヴァイの姿があった。




「何処へ行く?」




「エルヴィン団長に報告することがあって』




壁外調査から帰還した兵士達がする仕事は
調査中に殉職した兵士の
遺品整理・遺族への報告である。
勿論アルミンも、団長への報告が終わったら
すぐに取り掛かるつもりだ。




「そうか。俺もエルヴィンに用がある」




彼はそう言って、アルミンの前を歩き出した。
しかしそこで、ある異変に気付く。
リヴァイが左足を引き摺って歩いているのだ。
不自由そうな動きを見て、
アルミンは慌てて彼の隣に寄り添い、肩を貸す。




「兵長、左足を負傷したんですか…?」




「ああ。情けねぇことにな」




人類の強さの象徴であるリヴァイの負傷は、
調査兵団にとってはかなりの痛手である。
リヴァイが女型の巨人との戦闘によって
左足を骨折し、一時戦線を離脱すると
民衆に知られれば、新聞社のネタにされ
大きく報道されるに違いない。
なので外では、なるべく負傷していることが
バレないように振る舞わなければならない。





「…俺は暫く役立たずってことだ。
女型の中身も取り逃がし、
部下を4人も死なせた…」




アルミンの耳にだけ届く音量で
ポツリと弱音を吐くリヴァイを見て、
アルミンは眉を下げる。

やはり、嫌な予感は的中した。
リヴァイ班は全滅したのだ。
彼はエルヴィンへの報告を終えたら古城へ戻り、
4人の部下の遺品整理に取り掛かるのだろう。
巨人化の影響でエレンはまだ寝込んでいるから、
広い古城の中、足を引き摺って、
1人きりで黙々と作業をするのだ。

遺族への手紙を認めるリヴァイの姿を想像して
アルミンは眉を下げつつも、
素直な気持ちを吐露する。




「…兵長が生きていてくれて、よかった…」




心から、そう思った。

またこうして隣に寄り添い、
その体温を感じる事が出来る喜びを噛み締める。


今回の壁外調査で失ったものは多かったが、
変わらずに在る幸せの尊さ、
その儚さを知った。








◆◇◆◇◆◇




執務室には先客が居た。

巨大樹の森中心部にて、
一時拘束することに成功した
女型の巨人がとった行動…
うなじの硬質化や
巨人の群れを呼んだ叫びの力について、
自身の推論を交えて熱弁していたハンジは、
執務室に連れ添って現れた2人の姿を見て
満面の笑みを浮かべる。




「やぁやぁお2人さん!
肩なんか組んじゃってアツイねぇ!」




「うるせぇな、声がデケェ…おいエルヴィン、
すまねぇな。左足をやられた」



「折れたのか?」



「いや…どうだろうな」




アルミンの肩から手を離し、
左足を軽く動かしてみると鋭い痛みが走る。
いくらリヴァイの骨密度が
常人よりも遥かに高いとはいえ、
女型の巨人の攻撃を受け止めた左足は
無傷とまではいかなかったようだ。

エルヴィンにとって、
リヴァイは忠実なる駒の一つであり、
替えの効かない最終兵器でもある。
常に重要な役割を任せてきたリヴァイが
盤上で使用不可となるのは大きな損害だ。

エルヴィンの表情が
明らかに険しくなったのを見て、
ハンジはわざとらしく咳払いをする。




「リヴァイだったらそのくらいの怪我、
少し休めばすぐ治るだろう?
歩けないってワケじゃなさそうだしさ!
アルミン、彼に肩を貸してくれて有難うね」




「い、いえ…当然のことをしたまでです」




「そうだよね!恋人同士だもんね!」




ニッコリと笑ってそう言い切るハンジを見て、
アルミンは唖然とする。
何故、それを…?と目を白黒させていると、
執務机に座るエルヴィンは
額に手を当てて苦笑した。




「あなた達、めでたく結ばれたんだってね。
リヴァイから聞いてるよ、おめでとう!」




多大な犠牲を払った壁外調査の後で
彼女は何故そんなに晴れやかに笑えるのか。
自分の隣に立つ彼とは違った意味で
人類最強である。
ハンジの台詞を受け、
金魚のように口をパクパクさせているアルミンを
横目で見て、リヴァイは不服そうに
眉間に皺を寄せる。




「俺は女とコソコソ付き合う趣味はねぇ。
あぁ、エレンにも言ってあるからな」




「えぇぇ!?いつですか!?」




「お前が古城に泊まった日の朝だ」




「なっ…!!」




アルミンは絶句した。

ベルトルトの時と同じように、
彼女はリヴァイと交際している事実を
誰にも言うつもりは無かった。
それによって周りに気を遣われたり、
もしかしたら歳の離れた新兵に
手を出したリヴァイに、
冷ややかな目を向ける輩がいるのではないかと
危惧したからだ。

しかし、彼はそんなことを微塵も気にすることなく
堂々とアルミンとの交際を周りに宣言していた。
エルヴィンやハンジには勿論のこと、
彼女の幼馴染みであるエレンや、
今は亡きリヴァイ班の面々にも。




back
121/77


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -