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手当てを受け、アルミンは怠さを訴えてくる
身体に鞭を打って立ち上がる。
直接的な攻撃を受けた訳ではないが、
それでも凪ぎ払われた際に
相当な衝撃を受けたのだ。
もし上手く受け身をとれていなかったらと
思うとゾッとする。
依然として頭痛は治まらないが自力で馬に跨がり、
アルミンは次にとるべき行動を2人に告げる。




「早く配置に戻らないと。
そろそろ撤退の指令が出るはずだ」




立体機動装置は大丈夫そうだ。
地面に叩き付けられた瞬間、
留め具が上手く外れてくれた。
これから壁に戻るまでの間、
万が一戦闘を免れない状況になったとしても
まだ抗う術はある。




「陣形が直進していれば、
恐らくここは四列三班辺りかな」




「…しかし、壁を出て一時間たらずで
とんぼ返りとは…。
見通しは想像以上に暗いぞ…」




まるでいつかの自分を見ているかのように、
外門付近で調査兵団を見送る子供達は
皆キラキラした目を向けてくれた。
巨人と戦う勇敢な兵士。
極度の緊張のなか、
少年少女の憧憬の目差しを確かに感じた。
しかし、今回の壁外調査は
彼らをガッカリさせる結果に終わりそうだ。
深く項垂れるジャンを見て、
アルミンの表情にも影が差した時、
前方の空に緑色の煙弾が上がる。





「「!?」」




「な…!?撤退命令じゃないのか!?」





緑色の煙弾は、次の進路を示すものである。
左翼側に寄るように放たれた煙弾を見て、
3人は呆然とした。
壊滅的な被害を被っていることは明白なのに、
エルヴィン団長は陣形の進路だけを変えて
作戦を続行するつもりらしい。




「作戦続行不可能の判断をする選択権は
全兵士にあるはずだが…
まさか指令班まで煙弾が届いていないのか?」




無慈悲な判断に眉を寄せてライナーが呟くが、
それはない、とアルミンは確信する。



ーー…団長は恐らくこの機を逃さない。
彼は今回の壁外調査で、
兵団の中に紛れている敵を誘きだし
拘束するつもりだったのだ。




「わからなくても今の状況じゃ
やることは決まってる……判断に従おう」





険しい顔付きで馬を走らせるアルミンを振り返り、
前を走る2人は無言で頷いた。








◇◆◇◆◇◆






今回の目的地である旧市街地は通り過ぎ、
陣形は巨大樹の森にぶつかった。
巨木樹の森とは、
壁内・壁外に点在する巨木群であり、
樹高は80mを超える。
森の近くで他の班と合流した3人は、
その場を指揮していた先輩兵士の指示に従う。



険しい顔で新兵に指示を飛ばす男を見て、
アルミンは漸くネスが死んだという
現実を受け止めることになる。



この1ヶ月間、親身になって自分を育ててくれた
ネスが、目の前で一瞬で肉塊に変わった。


ネス班に配属された初日、
彼は朗らかな笑顔を向け、
その大きな掌をアルミンの頭に乗せた。
まるで子供にするように、
わっしゃわっしゃと頭を撫でられ
髪の毛がぐちゃぐちゃになったのを覚えている。

訓練では、他の兵士よりも
動きが鈍いアルミンに対して
厳しい言葉を掛けることもあったが、
決まって労いや励ましの言葉も付け加えてくれた。
そのおかげで、自身の弱点を見つけ、
改善に勤しむことが出来たのだろう。

食堂で顔を合わせれば、相席することもあった。
大体ネスは副班長のシスとセットで現れ、
他愛ないお喋りを繰り広げては
アルミンを笑わせてくれた。

リヴァイと心を通わせてからの数日間は、
相手は誰だとしつこく詰め寄ってきて
どうはぐらかそうか必死で
訓練が終わったら逃げるように兵舎へ戻っていた。
今思い返せば、彼には打ち明けても
良かったのかもしれない。
ネスは話好きではあるが、
周りに知られたくないことを
態々言いふらすような真似はしないだろうし、
きっと自分のこと以上に喜んでくれただろうに。


もっと、話したかった。
もっと強くなって、肩を並べて戦いたかった。
ネスが奇行種と戦っている最中に
アルミンの方に行かせるな、と
シスに言っているのが聞こえた。

どんな時でも優しくて部下を思いやるあの人が、
俺が育てた兵士だ、と胸を張って
自慢できるような兵士になりたかった。




でも、ネスはもう、この世にいない。




漠然とその現実を飲み込めば、
急激に目頭が熱くなってきた。




(堪えろ)





そう思えば思うほど、
込み上げてくるものは大きくなる。
歯を食い縛ってそれに耐えていると、
前にいたジャンが不意に此方を振り返った。



アルミンの顔を見てジャンは目を見開いたが
何も言うことはなく、近くの巨大樹を指差し
上がるぞ、とだけ言った。




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