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巨大樹の枝の上。
眼下に広がる壁外の景色を、
アルミンとジャンは並んで見下ろす。
風に揺れる草原の風景はとても穏やかで、
澄みきった青空も相まって平和そのものに見える。
巨人の姿さえなければ。




「正気かよ…当初の兵站拠点作りの作戦を放棄…
その時点で尻尾巻いてずらかるべき所を
大胆にも観光名所に寄り道…そのあげく
馬降りて抜剣して突っ立って、
森に入る巨人を食い止めろと…?」





指示を出した上官を睨み付け、
ぶつぶつと文句を並べるジャンを横目で見て、
アルミンは苦笑する。

先程、必死で泣くのを堪えていたアルミンに
ジャンは気付いたようだが、
涙の理由を尋ねたり慰めたりはせず、
普段通りに振る舞っている。

何も聞かずにただ傍に居る。
それが、彼なりの優しさだった。




「あいつ、ふざけた命令しやがって…」




「…聞こえるよ?」





クスリと笑うアルミンの手にも、
未だ上官を睨み付けているジャンの手にも、
剣が握られている。
何の説明もないこの状況に不満を抱きつつも、
一応、上官の命令には従う。




「極限の状況で、部下に無能と
判断されちまった指揮官は
よく背後からの謎の負傷で死ぬって話があるが…」




物騒なことを口にするジャンを見上げ、
「ジャン…?」と恐る恐る呼び掛けると
彼は此方を見下ろしてニッと笑った。




「マジになんなよ。
少しこの状況にイラついただけだ」





その笑顔を見てホッとして、アルミンは考える。
心の中に渦巻く疑惑の念はどんどん広がっていき、
アルミンは疑心暗鬼になっていた。
予測がついた女型の巨人の正体も、
それに加担したと思われる人物も、
一人で抱え込むには重すぎて、
正直気が狂いそうだ。

でも、ジャンになら
打ち明けてもいいかもしれない。
彼ならきっと真剣に話を聞いてくれる。




「…あのさ、ジャン」




「ん?」




「少し話があるんだけど…聞いてくれる?」




「急にどうした、改まって。
俺がお前の話を聞かなかったことがあるか?」




茶化すようにそう言ってのけ、
やはりジャンは真剣な目差しで
アルミンを真っ直ぐに見つめる。
真摯な双眸は透き通っており、
ジャンの人柄をそのまま表しているようだった。


しかし、意を決してアルミンが口を開いた時、
5m級の巨人の接近を知らせる声が轟き、
2人の会話は中断を余儀なくされた。


巨人を森の中に入れてはいけない。


巨大樹の森の中には中列・荷馬車護衛班のみ
侵入を許されている。
ということは、エレンも、
そしてエレンを追っていた女型の巨人も
この深い森の中の何処かに居るのだろう。



今はまだ静けさを保つ森の中で、
エルヴィンが考案した
第57回壁外調査の真の目的が
静かに遂行されようとしている。


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