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目を剥いて、兵士一人一人の死闘の行く末を
食い入るように見つめていると
エレン、と聞き慣れた声が
自分を呼ぶ声がした。
立体機動で鳥のように現れたのは、
金色の髪を血で汚したアルミンだった。




「んーーー!!」




またしてもその名を紡ぐ事は叶わない。





(バカ野郎!何で来たんだ!?
このままじゃお前も連れていかれるぞ!?)




こいつらの言う、"故郷"とやらに。




「アルミン……!!」




この血生臭い戦場に、相変わらず
似ても似つかない容姿の彼女を見て、
ベルトルトは感嘆の声を上げる。
会いに来てくれた。命懸けで。
こんな壁の外の世界まで。
背中越しにでも、
自ら自分の前に姿を現れてくれたアルミンを見て
ベルトルトが驚喜しているのを
感じ取ることが出来た。




「来て…くれたんだね…!」




「…ベルトルト…」





2人共声が震えている。
一人は再会に歓喜して、一人は恐らく恐怖に怯えて。





「よかった…!僕と一緒に行こう、アルミン…!
大丈夫だ、何も心配要らない!
外の世界は不安だろうけど、
僕がついてるから…!」




エレンは身動ぎして、必死に背後の様子を窺う。
目に入ったのは、アルミンを抱き締めようと
彼女に手を伸ばすベルトルト。
それに対してアルミンも、戸惑いながらも
ベルトルトに向けて手を伸ばしている。
ーー…嘘だろう?その手をとるつもりか?
かつて壁を破壊した男の手を受け入れようと
両手を広げるアルミンの姿が目に入り、
エレンは絶句した。
過去の話とはいえ、2人が愛し合っていたのは
紛れもない事実であり、
決して消し去ることは出来ない。
今再び自分に向けて囁かれる愛の言葉に
何も感じないという訳にはいかないだろう。


このまま、その穢れた手をとってしまうのか…?




「アルミン…!!ずっと、こうしたかった…!!」




小さな身体を掻き抱き、金糸の髪に顔を埋め
ベルトルトは甘い香りを胸一杯に吸い込む。
身体の柔らかさも、細さも
最後に抱き締めた時と変わらない。
記憶の中に残る彼女をそのまま、
今この腕の中に抱いている。




「ごめん!!君を傷付けて…!!
謝って済むような問題じゃないって解ってる…。
でも、これから、僕の一生を懸けて償いたい…
残された時間は少ないけど…傍に居て欲しい。
隣に居て欲しい。
嫌なんだ、もう、君と離れるのは……」




「…………」





涙声で胸のうちを告白するベルトルトの声が
アルミンの耳を通り過ぎていく。
彼の腕の中にすっぽりと包まれ
暫くの間、久しぶりの体温を味わった。
ベルトルトの匂いも、耳馴染みの良い声も
固い胸板も、髪を優しく撫でる指も
今までのこと忘れて、と言われた
あの日のままだった。

不意に、首を捻り必死に此方の様子を窺っている
エレンと目が合った。

印象的な金色の瞳は見開かれ、絶望に揺れている。
シガンシナの壁が壊されてから、
何度この目を見ただろう。
子供の頃、エレンはいつだって強気で
前を見つめて走り続けていたのに、
ウォール・マリアが突破された以降、
絶望にうちひしがれる姿を幾度となく目にした。
母親が巨人に喰われた時。
同期が目の前で次々と死んでいった時。
同じ人間から銃口を向けられた時。
リヴァイ班の仲間を死なせてしまった時。
アニが女型の巨人だと知った時。
そして…今回も。





(エレン…今、僕がベルトルト達に
ついていくんじゃないかって、思ってるだろ?)





感情の色がそのまま出る忙しない目を見つめ、
アルミンは微笑む。




「………!」




フッと儚く笑ったアルミンが今何を言いたいか、
不思議とエレンには解った。




ーーー大丈夫。君を助けるよ。必ず。





(…アルミンは…俺達を裏切ったりしない…!!)




そう確信できる程、強い瞳で。
空よりも澄んだ碧眼は、
自分を信じろとエレンの心に訴えかけてくる。


アニやベルトルトと親しくしていたアルミンにとって
この作戦は誰よりも辛い筈なのに。
今宿敵の目の前に立ち、
自分を助けようとしてくれている。
それを思うと、エレンは
込み上げてくるものを抑えることが出来なかった。
鼻の奥がつんとする。
口に含んだ布切れを噛み締め、
涙で歪む世界を声を殺して見ていた。








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