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びくりと大袈裟に跳び跳ねる
アルミンとは対照的に、
リヴァイは忌々しげにゆっくりと振り返ると
そこには声の主…エルヴィンが立っていた。




「も、申し訳ございません!
会議のお時間ですか!?」




意味もなく謝罪の言葉を口にしながら
慌てて立ち上がるアルミンと、
無言で目線だけを送ってくるリヴァイを
交互に見つめた後、
エルヴィンは事態を簡潔に報告する。





「今し方、ウォール・ローゼが突破されたとの
急報が入った」





「「………!!」」





ーーウォール・ローゼが突破された…?



どこか非現実的なその報せを聞いて
リヴァイもアルミンも瞠目する外ない。
ウォール・ローゼを失えば、
人類に残された活動領域は
ウォール・シーナのみ。

これ即ち、人類の敗北を意味する。




「我々は直ちにエルミハ区へと向かい
陣形を整え次第、巨人が出現したという
ウォール・ローゼ南方へ向かう。
アルミンはエレン、ミカサと共に
ハンジ班に加われ。
リヴァイはウォール教の司祭の監視を頼む」





言葉を失う2人に対し、
エルヴィンの瞳は爛々と燃えていた。

彼はまだ諦めていない。
人類の勝利を。




ーー実はこの日、アニ拘束作戦に参加する
エレン・ミカサ・アルミン・ジャンを除いた
104期兵は、ウォール・ローゼ南区の
とある施設に隔離されていた。
アニが女型の巨人の正体であったことを受け、
エルヴィンは104期兵の中に
更なる敵が紛れ込んでいるのではないかと
疑ったのだ。

しかし、もし本当に壁が破られていたのなら
104期兵に巨人はいなかったということになる。
彼らは今、装備もなく無防備な状態で
巨人の群れの中に放り出された状況にあるだろう。
彼らには悪いことをした、と思ったのは
ほんの一瞬で、次の瞬間エルヴィンの脳裏には、
この事態にどう対処するか
いくつもの策が浮かんでいた。








◇◆◇◆◇◆







先に荷馬車に乗り込んでいた2人を見つけて、
アルミンは僅かに微笑み手を上げる。
女型との戦闘直後より、
エレンの顔色は大分良くなってる。
しかし、まだ本調子とまではいかないようで、
肩に毛布を引っ掛けたまま、
此方に気付いて手を上げたエレンは
疲れ切った顔をしていた。




「大丈夫?エレン」




気遣いながら、アルミンは荷馬車の奥、
エレンの隣に腰を下ろす。
その向かい側にはリヴァイが座った。




「ああ、大丈夫だ…少し寝たから」




「無理は禁物だよ。
なるべく巨人化は控えた方がいい」




以前、巨人化能力を酷使したせいで
鼻血が止まらなくなったこともある。
万全の状態でないと巨人化は危険を伴うのだ。
エレンの命を削ってまでするべきではない。
アルミンの心配を余所に「大丈夫だって」と
言い張るエレンの隣で、
ミカサは膝の上に拳をつくり、
斜め向かい側にいるリヴァイを見つめた。



「…兵士長」




ミカサがリヴァイに話し掛けるなんて珍しい。
審議所での一件の後、ミカサの中で
彼は"排除すべき対象"に認定された筈なのに。
アルミンはきょとんとして
エレンの向こう側に居るミカサの表情を窺うと、
彼女は驚くべき行動に出る。





「…すみませんでした」




余程不服なのだろう、ミカサは歯を食い縛り
絞り出すようにそう言って、
なんとリヴァイに向けて軽く頭を下げたのだ。
それを見て、え、と硬直する幼馴染み2人。
唖然と口をぽっかりと開ける2人の前で
リヴァイは1人涼しい顔をして
彼女の謝罪に頷いてみせる。
もしここで、別に謝ることじゃない、と言っても
恐らくミカサは納得しないので、
一度謝罪を受け止めてやることが大切だ。

自分の身勝手な行動のせいで、
調査兵団の主戦力を欠いている状況に、
ミカサは責任を感じていた。
よりによって、リヴァイが作戦に参加できない今、
ウォール・ローゼが突破されてしまうなんて。

下を向いてしまったミカサに
掛ける言葉が見当たらず、
エレンとアルミンは顔を見合わせていると、
リヴァイはミカサを真っ直ぐに見つめて言う。




「ミカサ…お前の能力のすべては
エレンを守ることに使え」




「…!」




まるで、巨大樹の森でのミカサの行動は
正しかったとでもいうようなその台詞に驚いて、
ミカサは目を瞬かせていると、
リヴァイはなおも続ける。




「お前が…なぜエレンに執着してるか知らんが…」




もし自分がミカサの立場だったら。
女型に連れ去られたのがアルミンだったとしたら。
リヴァイも血眼で彼女を捜し、
彼女を危険に晒した元凶を
排除しようと動くだろう。

恐らくミカサと同じ行動をとる。

思わず巨人に連れ去られるアルミンの姿を
想像してしまい、リヴァイは眉を顰めつつ、
ミカサの黒曜の瞳を見据えて言った。





「自分を抑制しろ。もうしくじるなよ」





「……はい。もちろんです」





噛み締めるように頷くと、
リヴァイはすぐに視線を逸らしてしまう。

エレンに暴行を加えた上にアルミンの純潔を奪った
リヴァイのことを、ミカサは気に入らなかったが
この男は信頼に足る人物だと
この時初めて思ったのだった。




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