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ドタバタと大袈裟に足音を鳴らして、
「ごめんごめんお待たせしたね!
さぁ出発だ!」と言いながら
荷馬車に乗り込んできたのは、
戦闘用のゴーグルを身に付けたハンジと、
もう1人。


ウォール教のニック司祭だ。


ーー…ストヘス区南西のエルミハ区を目指して
動き出した荷馬車はガラガラと音を立てる。
闇の中を進む馬車の上、
リヴァイとハンジに挟まれて座る司祭を見て
3人は無言のまま視線を交わせた。

なぜ、ウォール教の司祭まで一緒に?

3人の胸の内を容易く読みとったハンジは、
「ニックとは友達なんだよ。ねー?」と
肩を組んでみせるが、
ふざけたのはその一瞬だけで、
次の瞬間には笑みが消えていた。




「…彼は壁の中に巨人がいることを知っていた。
でもそれを今までずっと黙っていた」




「…はぁ!?何だそりゃ!!
何か知ってることがあったら話して下さいよ!」




壁の秘密を知っているのにも関わらず、
それを口外しようとしないというのか。
一体何のために?
人類の未来よりも大切なものが他にあると?
憤りを覚えたエレンは声を上げるが、
それを片手で制したのはハンジであった。




「他の教徒に聞いてもよかったんだけど、
彼は自ら同行することを選んだ。
状況が変わったからね」




ゴーグルの下の、彼女らしからぬ鋭い眼光に、
エレンは口を閉ざすしかなくなる。
普段は誰に対しても明るく親しげに
接してくれるハンジだが、
時に彼女の纏う気は迂闊に触れられない程
鋭利なものとなる。
寧ろ、普段の享楽的な態度は
素顔を隠すための仮面なのかと思う程だ。




「現状を見てもなお、
原則に従って口を閉ざし続けるのか
自分の目で見て…自分に問うらしい」




ーー…女型の巨人を捕獲した直後、
ハンジはストヘス区の壁上にて
壁の中の巨人の情報を聞き出そうと
ニックに尋問していた。
お願いはしていない、命令した。話せと。
これは重罪だ、
人類の生存権に関わる重大な罪。
話さないなら此処から下に突き落とす、と
脅しをかけて。
しかしニックは頑なに口を割らなかった。
私は使命を全うする、と。




「…どうだろう…私には司祭が
真っ当な判断力を持った人間に見えるんだ…。
もしかしたらだけど、
人類滅亡より重要な理由があるのかもしれない」




闇に溶け込みそうな暗い瞳で手元を見つめる司祭は
ハンジの言葉を聞いても眉ひとつ動かさない。
まるで脱け殻だ。
人間の皮を被った、心を神に奪われた信仰者。
男の成れの果てを見て、哀れだな、と鼻で笑い
リヴァイは懐からある物を取り出す。



「まぁ、こいつには少し根性があるらしいが
他の信仰野郎共はどうだろうな。
全員が全く同じ志とは思えんが…
質問の仕方は色々ある」



取り出したのは小銃で、
わざとニックに見せつけるように揺らす。
月光を反射して装飾が鈍く光った。





「くれぐれも…うっかり体に穴が空いちまうことが
無いようにしたいな、お互い」




しれっとそう言うリヴァイを前にして、
アルミンは顔を青くさせる。

調査兵団に入団する前、リヴァイは
地下街のゴロツキだったとは話に聞いていたが、
部下に慕われる兵士長としての彼の顔しか
知らなかったので、いまいち信じられなかった。
恋人同士になってからは尚更だ。
溶けるような甘い愛をくれる彼は
壊れ物を扱うかのようにアルミンに触れ、
安らぎを与えてくれる。
これこそが彼の正体なのだ、と思っていたが、
どうやら隠された一面がまだあるらしい。
手慣れた様子で銃を扱うリヴァイを見て、
アルミンは人知れず眉を下げる。




「それはさておきだ…ハンジ」




「?」




「お前はただの石ころで遊ぶ
暗い趣味なんてあったか?」




「あぁ!そうだよ、皆これ見て」




今思い出したと言わんばかりに
ハンジは嬉々とした表情で
左手に握られた破片を3人に見せる。




「これはただの石ころじゃない…
女型の巨人が残した硬い皮膚の破片だ」




「…えっ!?消えてない!!」




「そう!!」




その通り。
予想通りいち早く反応を見せたアルミンを
ビシッと指差し、ハンジは上機嫌で語る。




「アニが巨人化を解いて体から切り離されても
この通り!蒸発もしない…消えてないんだ!
もしかしたらと思ってね、壁の破片と見比べたら
その模様の配列や構造までよく似ていたんだ」




つまりあの壁は大型巨人が主柱になっていて
その表層は硬化した皮膚で
形成されていたというわけだ。




「じゃ、じゃあ!」




「待ーった待ったアルミン!私に言わせてくれ!」




「ぷ…!?」




徐にアルミンの口を覆うハンジを見て
おい、とリヴァイは低い声で凄む。
石ころ触った手でアルミンの顔に触れるな、と
苦言を呈したいようだが、
生憎ハンジは聞く耳を持たない。
何やら興奮した様子の
調査兵団きっての頭脳派である2人に
完全に置いていかれているエレンとミカサは
助けを求めるように互いに目線を寄越す。
訓練兵時代は2人共、
座学は中の下くらいの成績だった。




「何が言いたいのかというとね、エレン、ミカサ…
このままじゃ破壊されたウォール・ローゼを
塞ぐのは困難だろう?
穴を塞ぐのに適した岩でも無い限りはね」



「「…?」」




「でも、もし…巨人化したエレンが
硬化する巨人の能力で
壁の穴を塞げるのだとしたら」





「……お…俺で…穴を塞ぐ!?」




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