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…結局また、守られてるな。
今度は、この人に。
人類最強と謡われ、
その背に多くの命を背負うこの人に。
自分の弱さに嫌気がさすが、
心地好い温もりを振り払うことなど出来ず、
アルミンは自分を支える彼の肩口に頬を寄せる。



「兵長…」



「なんだ」



「アニの顔…見ましたか?」




「…ああ」




地下に運ばれていく水晶体を、
勿論リヴァイも確認した。
女型の中身はアルミンと同じくらい小柄な少女で、
死んだように眠っているその顔は……




「泣いてるように、見えた」





考えていることを見透かされたかのように、
自分に凭れているアルミンがぽつりと呟く。

巨大樹の森でエレンを奪い返した後、
女型の巨人が涙を流していたのを
リヴァイは目撃している。
斬撃により身動きがとれず、四肢を投げ出したまま
ボロボロと涙を流す女型の姿を見て
柄にもなく困惑した。

恐らく女型の巨人は…アニ・レオンハートは、
自らの意志で兵団の仲間を殺したり、欺いたり、
エレンを奪おうとしたのではないのだろう。
かといって、彼女が仕出かしたことは
決して許されることではないが。


口を結んでしまったアルミンの肩を抱き、
優しく頭を撫でてやる。




「泣きたいのはお前もだろう」




「…僕は…もう充分、泣きました」




「らしいな。目が腫れてる」




彼女の顔を覗き込み親指で目元をなぞってやると、
擽ったそうにアルミンは微笑んだ。
そのまま吸い寄せられるように唇を塞ぐと、
普段なら快く応じてくれる筈のアルミンの唇は
固く閉ざされる。
ピシッと音がしそうな程硬直した身体を
不審に思い、一度唇を離すと
彼女は目を真ん丸くしてリヴァイを見上げていた。




「…兵長…!こ、こんな所で…!!」




「あぁ?」




「いつ、誰が通るか解らないのに…!!」





緑豊かな中庭を囲む廊下は
人通りが少ないとは言え、それでも0ではない。
しかも本日は調査兵団の出入りもあり、
見知った顔も多い。
こんな所で堂々とキスが出来る
リヴァイの気が知れないと、
アルミンは慌てて辺りをキョロキョロと窺った。
幸いなことに、辺りに人の気配はない。




「…テメェ、見られちゃ不味い相手でもいんのか」




「そういうことを言ってるんじゃありません!
公共の場でする行為ではないってことです!」




「そんなルールは知らねぇ。したい時にする」




「ちょ、ちょっと待って…!」




顔を近付けてくるリヴァイを止めようと
慌てて両手を突っぱねるが、
彼女の細い手首は簡単に拘束されてしまう。
至近距離で目を細めるリヴァイの顔を見た後
唇に感じた柔らかな感触の温かさに、
アルミンは抵抗する気力を失い、
彼の気が済むまで大人しく口付けに応じる。

口内を堪能した後、ゆっくりと顔を離せば
とろんとした瞳で此方を見上げる
アルミンと目が合い、リヴァイは小さく笑う。

アルミンとアニが親しかったことは、
古城でのエレンとのやり取りで察していた。
今回の作戦が、彼女にとって

精神的負担が大きいものであったことも。

こんな時、どんな言葉で慰めるのが良いのか
口下手な自分には解らず、
リヴァイはずっと頭を悩ませていたのだが、
結局行き着いた答えは
出来る限り彼女の傍に居てやること、だった。
体温を分け合い、
存分に甘えてもいい居場所を作ってやること。
過去に何があったのかはまだ知らないが、
アルミンは誰かに守られることを
拒んでいるように見えた。恐れているようにも。
一兵士として逞しくあろうとする姿は
称賛に値するが、
ただの女として自分の前に居る時くらいは
守らせて欲しい。

この思いをそのまま口に出せたら
どんなに楽だろうか。

額と額を合わせ、気持ちを伝えようと
吐息が触れ合う距離で蒼い瞳を覗くと、
アルミンは照れているのか
頬を赤くして視線を逸らした。




「…あ、あの…」




「ん?」




「…あの、壁って!」




立ち込める甘い雰囲気を掻き消すかのように、
アルミンは声を張り上げる。




「石の繋ぎ目とか何かが剥がれた跡とか
無かったから…どうやって造ったのか
分からなかったんですけど…!
もしかしたら巨人の硬化の能力で
造ったんじゃないかな、って思ってて」




突然話題を180度変えられて
リヴァイは不服だったが、
その内容に思わず眉をひそめる。
壁の中の巨人を見て取り乱したハンジが
ウォール教の司祭に問い詰めていたのを思い出した。




「確かに…女型の中身がああなったように
硬化の汎用性は高いと見える。
しかし…壁の中には
実はずっと大型巨人がいました、とはな…
笑えねぇ冗談だ」




「…こうも考えられます。
僕達はずっと、
巨人によって巨人から守られていた…」




「………」




目の前にあるアルミンの両の目は真剣そのもので、
その深い蒼玉の瞳にリヴァイは思わず見惚れた。
なんて深い青色をしているのだろう。
ともすれば冷たい色なのに、鋭さはなく
どこまでも優しく輝く青。




「…それも冗談か?本当に笑えねぇ」




上の空でそう呟き、親指で彼女の唇をなぞる。
もう一度唇を重ねようと顔を近付けたところで、
リヴァイ、と背後から声を掛けられる。





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