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中央憲兵が隠れ家を取り囲んだのは、リヴァイ班が出発してすぐのことだった。



「あ、危ねぇ…!今夜もあそこに寝てたら…俺達どうなってたんだ…!?」



僅か数日間を過ごした隠れ家を山の上から見下ろし、コニーは呆然とする。出るのがあと少し遅かったら捕まっていた。いや、流石に大人しく捕まりはせず、抵抗して難を逃れたかもしれない。但し、そうした場合、人間の血で手を赤く染めることになっただろう。



「合流地点まで急ぐぞ。月が出てて助かった」




言葉少なにそう言い、リヴァイは月に照らされた道を颯爽と歩く。

皆、手には銃を抱えている。それはいつも握っているブレードよりも重い。今回の作戦の敵は巨人ではなく、人間なのだ。これは人間の命を奪う武器。重くない筈がない。



まずはトロスト区へ移動する。そこでエレンとヒストリアを安全な場所へ隠す。そして、ジャンはエレンに、シャオはヒストリアに変装し、街中を歩き敵との接触を計る。


決行は明日の午前。





◆◇◆◇◆◇




リヴァイ班はトロスト区近くの拠点に辿り着くと、少しの睡眠をとったのち、作戦の準備を始めた。

ジャンがエレンに化けるのは、アニ拘束作戦に続き2度目である。理由は以前アルミンが話してくれた通りだ。

シャオは元々ヒストリアと髪色が似ているし体型も近いため抜擢されたのだろう。いつもはお団子に結っている髪を後ろで一つに緩く縛り、白いブラウスにスモーキーピンクのロングスカートを履いた。髪をおろしただけで普段と大分印象が違って見える。

囮の人選もエルヴィンの指示だ。一見危険な任務に見えるが、敵もヒストリアを無下に扱ったりはしないだろうと考え、シャオに囮役を任せたのだろう。しかしリヴァイの眉間の皺は濃い。



「…おい」



鏡の前でくるりと回るシャオを低い声で呼べば彼女は、はい?と呑気に首を傾げる。



「…アルミンに女装させた方がいいんじゃねぇのか」



「え」



「え?なんてこと言うんですか兵長」



ピシ、と石のように固まるアルミンを哀れに思い、シャオは慌てて反論する。




「私じゃ役不足ですか?確かにヒストリアやアルミンのような天使性は皆無ですけど…」



「違う、女じゃねぇ方がいいって言ってんだ…捕まった先で何もされねぇ保証はあんのか?」



確かに、連れ去られた先で嬲られる可能性も0ではない。その理由を聞けば、アルミンもハッとしてシャオの顔色を窺う。


リヴァイの質問にシャオは一瞬考えた後、凛とした表情で答える。



「…それも想定してエルヴィン団長は私に頼んだのでは?アルミンが囮になっては、嬲られた時にすぐに偽物だとバレてしまいます。ここは私がやるべきです」




はっきりと答えるシャオの目を見て、彼女が覚悟を決めたのは解る。しかしリヴァイは依然として腕を組み、渋い表情をしている。自分以外の男が彼女の肌に触れるのが、どうしても許せない。確実にそうなると決まっている訳ではないが、下衆が考えることは大体似通っているだろう。

敵の正体を洗い出すために、この作戦をしくじる事は出来ない。私情を挟むべきではないのも解っている。だからリヴァイは何も言い返せずに黙っている。



「…もし、お前が何かされた場合」



妥協案だとでも言う風に、リヴァイはきっぱりと言い放つ。



「見せしめにそいつを殺すことにする」




「「「……!」」」




「時間だ、作戦を開始する。お前らは此処から一歩も出るなよ」



エレンとヒストリアに釘をさし、リヴァイは扉の取っ手に手をかける。

今回の作戦では、人を殺すことだって考えられる。躊躇してはいけない。我々はこれからクーデターを起こすのだから。だが、頭では理解しているのに、いざ言葉にされると萎縮してしまう。





…兵長は恐くないのだろうか。
人殺しなんかに、手を染めて。

それか、もうとっくに経験しているのだろうか。


104期生達の暗い視線を背に受けながらも、リヴァイはそれ以上を語ろうとはしない。




「…よし!みんな、行こう?」



どんよりとした空気を払い除けるかのようにシャオは明るく笑う。彼女の笑顔を見て少しホッとしたのか、皆足早にリヴァイの後を追っていく。

人の血で手を染めるにはまだ幼過ぎる彼らの背中を眺めて、シャオは部屋に残る二人を振り返る。



「シャオさん、気をつけて…」



不安に揺れる金色の瞳に、大丈夫、と頷いてみせる。そして無表情で此方を見上げているヒストリアに、屈んで視線を合わせ、「ヒストリアのお姉ちゃんになった気分だよ!」と言って笑った。

その屈託のない笑顔を見て、ヒストリアは空色の瞳を瞬かせる。エレン奪還作戦後二人きりで話した時も、ヒストリアは頑なに心を開かず、その後シャオに何を話し掛けられても素っ気ない態度を取っていた。それなのに、この人はまだ自分の心に寄り添おうとするのか。


いつも通り無言で返されてもシャオは少しも気にする素振りを見せず、踵を返して班員を追い掛ける。



ーー…どうか何事もなく終わりますように。





エレンもシャオも、そして、ヒストリアも
その時、同じことを思った。

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