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何馬鹿なことを言っているんだこの子は、という視線が痛い。シャオはばつが悪そうに床の一点を穴が空くほど見つめている。



「…どうして、そう思う?」



話を整理しよう。シャオは現在マリッジブルーで、自分に自信をなくしているのか将来に不安を抱き始めたのかはわからないけど、とにかく自分はリヴァイ兵士長と釣り合わないと感じている。そして何故か知らないがリヴァイの相手は私だと釣り合いがとれると。それは私が分隊長だからか?地位か?経歴か?



「…ハンジさんなら、兵長の考えてること、すぐわかってくれると思うんです。さっきみたいに、兵長が何を言おうとしてるのかとか…」



そこまで聞いて、漸く話が読めた。さっきのリヴァイの解りにくい話が引き金となったようだ。納得、と言ったふうにパンと膝を叩いたハンジは笑っていた。



「あぁなんだ、そんなこと!?そりゃあ付き合いが長くなれば解るよ、多分エルヴィンだって解ったはずだ!」



「それが……前の方がわかってた気がするんです、私。長くなればなるほど、わからなくなってきちゃったんです」



一番傍に居る筈なのに、遠く感じる時もある。




「全部わかればいいってもんじゃないよ。相手が私やエルヴィンだったら全部わかってもらわないとリヴァイも困るだろうけど」



「?」



「リヴァイにとって、私やエルヴィンは戦友だ。調査兵団で背中を預けて闘う仲間。だから私は彼らの頭のなかを解ってないといけないし、逆もまた然りだ。敵は強大、立ち向かうためには頭の中も共有しないといけないからね」



でも、あなたは違う。とハンジは兵士であるシャオにはっきりと言った。




「仲間以前に、恋人同士だから。二人にはお互いに個人的な感情もあるだろう。それが絡んだら流石に私でもわからなくなるよ」



ハンジだって、人の心を読める超人ではないのだ。

さっきは偶々、上司の立場で部下を励まそうとするリヴァイの気持ちを理解できただけで、彼のプライベートな感情までは把握しきれていない。



「わからないからもっと知りたいって思うんじゃないのかな?でもごめん、そういうの経験ないから私!」



掌をヒラヒラとさせるハンジを、シャオはキョトンと見上げる。

知識欲が海のように深く、いつも忙しくしているハンジには恋愛に裂く時間などない。一夜限りは何度かあったが、今まで一度も恋人が出来たことはなかった。しかし、そんな中でも。



「今までで、リヴァイのことを良いなって思ったことは何度もあるよ」



「!」



突然の告白に、シャオは息を呑む。




「ただそう思った後にすぐ考え直すんだ。私はリヴァイより背も高いし、ズボラだし、何より女として見られてないって解るし。もうとっくに諦めてるからそれは安心していい」



万が一裸を見られたとしても、彼のものは一切反応しないだろうと断言できる。試したことはないが。試すことすら全力で阻止されるのが目に浮かぶ。

リヴァイの過去の恋人は容姿や雰囲気はそれぞれ違っていたが、皆顔は整っており、そして華奢な女が多かった。きっと彼のタイプは背の小さい美人だ、と納得したのも良い思い出である。




「だからこそ私は、彼を一番に幸せにしてくれる人が現れることをずっと願ってたんだよ。そしてそれはシャオ、君だ」



ポンと両肩を叩き、頼んだぞ、という目で見下ろされれば、シャオは無意識で右手を心臓に当てた。リヴァイに好意を寄せていたことを包み隠さず正直に話す、ハンジの人柄にシャオはまた惹かれた。


ハンジたっての頼みなら、何がなんでも彼を幸せにしてあげなくてはならないと思った。こんなことで悩むのは彼女に失礼だ。

リヴァイは自分を選んだのだから。






◇◆◇◆◇◆





その手紙に認められた内容に、リヴァイ班の面々は愕然とする。これはエルヴィンからの指示だ。これから速やかに自分達がとるべき行動が書かれていた。



「全員読んだか?」




呆然としながらも全員が頷いたのを見て、リヴァイはすぐに手紙を蝋燭の火で燃やす。




「お前らはヤツを信じるか?」




水を打ったように静かな部屋で、リヴァイはそう問い掛ける。…それは、とても難しい質問だった。中には目を泳がせる者も居た。それでも、此処から去ろうとする者は誰一人としていない。


皆の心臓の音が聞こえてきそうだ。




「信じるバカは来い…出発だ」







ーーー…フリッツ王政の打倒。
我々は王の首をすげ替える。





エルヴィンからの手紙の冒頭は、
その一文から始まっていた。







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