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調査兵団は決死の突撃によりエレンの奪還に成功。しかし作戦に参加した憲兵の殆どと、調査兵団は熟練の兵士の大半を失う。
そして団長のエルヴィンは右腕を奪われるという、甚大な被害を受けた。




ウォール・ローゼの住民は第2の壁が突破された際の模擬訓練の通り、ウォール・シーナ内の旧地下都市に避難することとなった。
想定された通り、残された人類の半数以上を食わせる事の備蓄は、1週間が限界だった。

つまりウォール・ローゼが本当に突破されていた場合、最後の平和が訪れるのはその1週間のみである。そこから先を強いられることになれば、選ばなければならない。

飢えて死ぬか、奪って生きるか。
すべてを譲るか、すべてを切り捨てるか。

ウォール・ローゼ内の安全が確認されたのは、問題が発生した1週間後だった。




「皆が身をもって確認したよ。ウォール・ローゼ崩壊後は1週間の猶予を経て人類同士の殺し合いが続くのだとな」



ベッドから起き上がれないエルヴィンの自室にて、ピクシス、リヴァイ、シャオの四人は、顔を合わせてこの一週間の現状の確認をしていた。



「すまねぇなエルヴィン、せっかく話ができるまで回復したのによ。この1週間は聞くだけで寝込みたくなるようなことしか起きてねぇぞ」



元々旧地下都市にいた不法住民が立ち退きを命ぜられ、一部の地区で憲兵と衝突した。その事件が壁全域に与えた影響は大きい…地獄の釜が一瞬蓋を開けたのを見たのだから。リヴァイは地下都市の出身だが、故郷は全く変わりないようだと閉口する。



「それとこの1週間、104期の連中はシャオに面倒見てもらった」



リヴァイは隣に座るシャオに目を向けて説明を促す。シャオは眉を下げたまま、エルヴィンの目を見つめて口を開く。



「今回の件で104期生は心にも深い傷を負いました。同期の二人が超大型及び鎧の正体…。エレンは二人に連れ去られた時に、ゆっくり対話をする時間があったようですが…」



膝に顔を埋めてその時の話をしてくれたエレンを思い返し、シャオは言葉に詰まる。


エレンの隣に寄り添い背中を撫でて、『言いたくなかったら言わなくて大丈夫。大丈夫だよ、エレン』と声をかけた。

しかし、エレンは口を開いてくれた。
ありのままを教えてくれた。




ーー…一丁前に人らしく悩んだりしてんじゃねぇよ!もう人間じゃねぇんだぞお前らは!!この世界を地獄に変えたのはお前らなんだぞ!!わかってんのかこの人殺しが!!


ーー…その人殺しに何を求めてんだよお前は!?反省して欲しいのか!?謝って欲しいのか!?それでお前は満足かよ!!もうお前の知る俺らはいねぇんだぞ!?泣き喚いて気が済むならそのまま喚き続けてろ!!



巨大樹の森での二人の感情のぶつけ合いは、静かに聞いていたシャオの顔を悲痛に歪ませる。エレンは淡々と話してくれたが、その次の言葉を告げる際、余程辛かったのか、シャオの体を抱き締めて肩口に顔を埋めた。

抱き着いてきたエレンを黙って受け入れ、シャオは彼の背中を優しく撫でた。




『俺は…頑張るしかねぇ。頑張って、頑張って…お前らが出来るだけ苦しんで死ぬように、努力するよ…。って、言ったんだ……』





自分の言ったことを思い出し震えるエレンを、シャオは抱き締めて頭を撫でた。柔らかい黒髪の感触が忘れられない。エレンが苦しくなるほど強い力でしがみついてきても、シャオは彼の震えが治まるまで受け入れていた。


エレンの他にも、ミカサやアルミン、ジャン、サシャ、そして故郷を失ったコニー…一人一人と時間をあわせ、シャオはゆっくりと話を聞いた。時には年頃の彼らの恋愛事情なども聞いたりして、心をリラックスさせることに努めた。皆シャオに心を開いてくれたが、ただ一人だけ、距離を縮められなかった少女が居る。



「ニック司祭から壁の秘密を握る人物だと明かされたヒストリアですが、ユミルが離れていってしまったことに相当ショックを受けているみたいです」




彼女の本名はヒストリア・レイスという。
周りからは思いやりのある優しい子だと聞いていたが、シャオの前に現れたヒストリアは終始無表情で、時に思い出したようにこう呟く。

裏切り者、絶対に許さない。
私を置き去りにするなんて。

それがユミルの事を指しているのだとはわかったが、彼女はそれ以外の事を何一つ話してはくれなかった。



「…私の力が及ばず、ヒストリアの心を癒すことは出来ませんでした。申し訳ありません…」



「…お前が謝ることじゃない」



空かさずシャオを労るリヴァイを見て、目を丸くしたとはピクシスだ。



「…リヴァイ、いつの間にそんな気の利いた台詞が言えるようになったんじゃ?」



「あ?」



「惚けるでない。昔はよく女をものにして好き勝手やってたであろうが…まぁこれで、付き合う女で男は変わるということが証明されたの」



「!おいおい、じいさん…」



コイツの前でそんな話するなよ、と苦虫を噛んだ顔をするリヴァイを見て、エルヴィンは苦笑する。



「すまんリヴァイ。ピクシス司令にシャオはお前の女だと紹介してしまった」



「いや、それは一向に構わねえが…」



「てっきりわしはエルヴィンのものかと思ったんじゃが。何しろ希代の問題児には勿体無いお嬢さんだ」


そう言って頬笑み、ピクシスは困ったように曖昧に笑うシャオに目をやる。その隣でリヴァイは頭を抱え、小さく溜め息を吐いていた。



「そういえば、リヴァイ。戸籍がどうとか言ってたな。まだ調べていなかった」



「あぁ、その話か…別にいつでもいい。第一、今は忙しくてそれどころじゃねえよ」



何の話かと首を傾げるシャオの顔を見て、リヴァイは無言で彼女の左手の薬指を指差す。その仕草で言わんとすることを理解し、シャオは赤面する。
一連のやり取りを見て、ピクシスは声を上げて笑った。



「こりゃめでたい!ええのうリヴァイ、別嬪さんを捕まえおって」



「さっきからうるせぇじいさんだ。酒の飲み過ぎで頭イカれちまったか」



結婚式には呼んでくれ、と気が早い事を言い出すピクシスに、シャオがはにかんで笑った時だった。


コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。



「ハンジだ。入れ」



扉の外に居る人物をすぐに察したリヴァイが答えると、失礼するよエルヴィン、とハンジが部屋に入ってきた。104期生の一人、コニーを従えて。



「いらしてたのですねピクシス司令」



椅子に座っているピクシスを見て二人は敬礼し、ちょうど良かったとハンジは調査の報告を始める。怪我はすっかりよくなっていた。



「今回の巨人の発生源についてですが、やはりあの仮説の信憑性を増す材料が揃うばかりです」




仮説というのは、今回出現した巨人の正体は、コニーの故郷であるラガコ村の住人ではないかというものだ。村の家屋は全て内側から何かが爆発したように破壊され、またあれだけの破壊跡がありながらも血痕一つなかった。更に壁内に出現し討伐された巨人の総数がラガコ村の住人の数と一致した。


…中でも一番説得力のある証言が。




「俺の家にいた巨人…俺に話し掛けてきたことがあるんです。お帰り、って……」




辛そうに、それでも気丈に報告したコニーは、シャオと目が合った瞬間、今にも泣き出しそうな顔をする。二人きりで話した時はわんわん泣いており、シャオはずっとコニーの背中を撫でていたのだ。




ラガコ村にて。

手足が充分に発達しておらず、仰向けに寝転がったままの巨人は、確かにコニーの母親の面影があった。

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