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(さっきの爆発。
あいつらはどうなってる…?)
シガンシナ区の中央に上がった巨大なキノコ雲。壁の外側に居るリヴァイにも確認出来た。
樽に入ったベルトルトが投げ込まれたのを見たが、すぐには爆発しなかった。ハンジやスヴェン達は上手くかわしたのだろうか。
シャオは、無事だろうか。
(……とにかく、俺も早くそっちにーー)
早いところ獣の巨人を仕留めて、スヴェン班、ハンジ班の安否を確かめなければ。
そう思った時だった。
「前方より砲撃!!総員物陰に伏せろおおおお!!」
ーー……辺りにエルヴィンの怒号が轟いたのは。
その声から二秒とかからない内に、獣の巨人による投石が、前衛にて小型の巨人と対峙していたディルク班、マレーネ班、クラース班を襲う。
今リヴァイが居る場所から、彼らが次々と倒れていくのが見える。
「!!」
此処にいたら巻き添えを食らうと判断し、リヴァイは咄嗟に壁際へ後退する。
……獣が投げた石が命中し、ディルクやクラースの身体が滅茶苦茶になるのを見た。人間がただの肉の塊になる様を。
「ッ……!!」
馬を連れて逃げ惑う兵士達の元へ駆け寄り、「急げ!!射線の死角を移動しろ!!」と声を掛けながら、リヴァイは新兵達をエルヴィンの元へと誘導する。
獣の巨人による投石。
威力は大砲と同等である。
投石は建物を次々と破壊し、少し掠っただけで人間の身体はバラバラになるだろう。
壁の上に居たら格好の標的となると悟ったらしく、エルヴィンが難しい表情で地上に降りてくる。
「状況は?」
「……最悪だ。奴の投石で前方の家は粗方消し飛んだ」
あの投石が続けばここもすぐに更地となり、身を隠す場所はなくなる。
「壁の向こう側には逃げられそうにないのか?」
「ああ…超大型巨人が此方に迫ってきている。炎をそこら中に撒き散らしながらな……」
仮に兵士が壁で投石を逃れても、馬は置いていくしかない。ここを退いてもその先に勝利はないだろう。正に、四面楚歌の状況。
「……ハンジ達はどうなっている?エレンは無事か?」
本当はすぐにでもシャオの安否を問い質したい筈なのに、立場を弁えて冷静を装うリヴァイの姿は見ていて痛々しかった。不安の色を隠せずに居る新兵達の手前、兵士長を務める自分が取り乱す訳にはいかない、と思ってのことだろう。
「……わからない」
エルヴィンは返答に迷ったが、自身の目が見た真実を伝える。
「だが大半はあの爆風に巻き込まれたようだ。我々は甚大な被害を受けている」
覚悟はしていた筈だったが、その報せを聞いて、リヴァイの眉間には深い皺が刻まれる。
「つまり内門側の残存兵力は、新米調査兵士の諸君達と……リヴァイ兵士長。そして、私だ」
それ以外の兵士は皆、先程の投石にて全滅。
爆発に巻き込まれた壁の中の兵士達は安否不明。
耳を塞ぎたくなるような状況に、新兵達はその場で泣き崩れる。身近に迫る死への恐怖心からか身体はガタガタと震え、その場に項垂れ嘔吐する者もいた。
年若い少年少女の悲鳴を耳にしながら、リヴァイは一度視線を左手に落とす。
薬指に嵌められた、輝きを失わない指輪が酷く場違いに思える。その輝きの中で此方を振り返り、兵長、と微笑むシャオの幻影が見えた。
ーーーお前は今、どうしてる?
生きているのか?
心の中で尋ねても、シャオの幻は微笑んだままだ。
「エルヴィン…何か……」
もうダメだ、おしまいだ、と叫ぶ兵士達の中で、ポツリと呟くリヴァイの声は小さいが、向かい合うエルヴィンの耳には届く。
「策はあるか?」
こんな絶望的な状況下でも、リヴァイは運命に抗うことを止めない。
ーー絶対に諦めない。
だって、シャオの遺体をこの目で確認した訳じゃない。シャオには、後でな、と言った。また会おうという意味だ。それは決して別れの言葉ではない。
左手を握り締め、親指で指輪の感触を確める。
彼女の心臓の音が聞こえた気がした。
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