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自分を見上げるリヴァイの瞳に、強い意志の力が宿ったのを見て、エルヴィンは息を吐く。



数分前とは違うその目付きを真正面から受け、エルヴィンは一つの決断をする。


策ならある。


しかし頭に浮かんだその策は、エルヴィンが調査兵団団長に就任してからこれまでの中で、最も非情な策だった。


口に出そうか迷う程の代物だったが、リヴァイのその眼光を見て、エルヴィンはゆっくりと口を開く。




「……この作戦が上手くいけば……お前は獣を仕留めることができるかもしれない」




「……なぜそれを早く言わない?」




言葉を濁すエルヴィンに気分を害したのか、リヴァイは足の爪先をトントンと打ち、早く言えと急かす。二人がこうしてお喋りをしている間も獣の巨人による投石は続いているのだ。





「ここにいる新兵と……私の命を捧げればな」





「…………!!」





戦いを放棄した新兵達は建物の影に隠れ泣き喚いている。馬が逃げ出しても、それを追う者は誰一人としていない。馬を守ったところで、それに乗って帰る兵士は何処にもいないと悟ってしまったから。




「どの道我々は殆ど死ぬだろう。それならば玉砕覚悟で勝機に懸ける戦法もやむ無しなのだが……」




暗い瞳で淡々と語るエルヴィンを、リヴァイは幼い子供のような眼差しで見上げ、呆然としている。



……エルヴィンが死ぬ?



それは自分が死ぬことより非現実的な未来で、いまいち実感が沸かないのかリヴァイはただただぼうっとしている。エルヴィンは調査兵団の団長で、先陣を切って戦地へと向かう人物だ。故に、他の誰よりも命の灯火は儚い筈なのに、エルヴィンが倒れる姿を想像するのは、リヴァイにはとても難しかった。




「そのためにはあの若者達に死んでくれと…一流の詐欺師のように体のいい方便を並べなくてはならない。私が先頭を走らなければ、誰も続く者はいないだろう。そして私は真っ先に死ぬ」





リヴァイの動揺を知ってか知らずか、エルヴィンは想像するに容易い残酷な未来を口にする。




あの夜、リヴァイはエルヴィンに問われた。





次の作戦で私やシャオが死んでも、お前は生きていてくれるか、と。





身を切るような辛い選択だったが、一つの答えなら出た。妻が死んだとしても俺は生きていく。シャオを永遠に愛すると誓った。彼女がいなくなった世界でも彼女を思い出し、この先も愛していく。俺にはそれが出来る、と。



しかしもうひとつの答えは、リヴァイの中でまだ出せていなかった。




エルヴィン・スミスは、地下街から自分を引きずり出し、導いてきた男だ。リヴァイは彼に忠誠心にも近い感情を持ち、その背を追ってきた。



彼の背中越しに見える世界こそが、リヴァイの目に映る世界だった。



目を見開いて硬直するリヴァイを前に、エルヴィンは諭すように言う。




「……リヴァイ。見えるか?俺達の仲間が」




その背に背負った命の数が。




自身が決めた選択で、下した判断で、失われた大切な命。彼らは人類のために全てを捧げて戦ってくれた。エルヴィンに、全てを預けて。全てを任せて。




しかし、当のエルヴィンは、
そうではなかった。




エルヴィンは、世界の真相を知りたいという、自分の夢を叶えるためだけに戦っていたのだ。




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