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個々の利益を優先し、人類の存続を脅かした罪。大義名分を得た兵団は、内乱に敗れた旧体制に容赦のない粛清を行った。
議員一族及び関係者は爵位を剥奪され、各地方の収容所に送り込まれた。残された貴族階級には、兵団に協力的な者と反する者の間で、税率の格差をつけ団結を阻害した。

内乱による死者以上に人類の中枢にあたる人材を失うことになったが、得た物も大きかった。

これまで中央憲兵によって末梢されてきたとされる技術革新の芽は、一部の中央憲兵により秘密裏に保持されていたことが判明。兵器改良の余地へと繋がった。

巨人が生み出したとされるレイス家領地の広大な地下空間の光る鉱石は、エネルギーを消費しない資源として利用され住民に還元され、工業地を日夜照らし生産性を向上させた。


…そして、エレンが得た硬質化の能力。





◆◇◆◇◆◇





ウォール・ローゼ内、調査兵団本部。

“技術班”と札が掛けられた扉を、シャオはノックする。


戴冠式翌日から、調査兵団はウォール・マリア最終奪還作戦へ向けて動き出した。エレンの硬質化の実験、シガンシナ区への夜間順路開拓、そして、エレンが生み出す岩を使った新型兵器の開発。それらに携わらない兵士達はやがて訪れる決戦に備え、厳しい訓練に励む。




「今回の実験で、エレンは50mの壁を作ることに成功したから…」



シャオは巨人化実験の成果を伝達しに技術班を訪ねていた。

兵士が戦わなくても巨人を倒せる新しい兵器の開発。大抵、新兵器の発想をするのはハンジだが、それを現実に形にするのは技術班の仕事である。

それ故に、ハンジと技術班は頗る仲が悪い。

完璧を求める彼女は、技術班が形にしたものを更に良くするため、ああでもないこうでもないと何かと注文を付ける。言葉では簡単にケチつけられるが、これを生み出す為に我々技術班は不眠不休で頑張ったんですよ、と彼らは言いたい訳である。



その間を取り持つために彗星の如く現れたのがシャオだった。


二年前。シャオが調査兵団に入団してまだ間もない頃、聡明な彼女はハンジに気に入られ、ハンジと技術班の間の伝令係を任された。可愛らしい外見と優しい雰囲気、それでいて頭脳明晰なシャオは、技術班班長であるスヴェンにも好印象を与え、それ以来ハンジと技術班は良好な関係を築いている。

実際、スヴェンがハンジと直接顔を合わせても以前のように険悪な雰囲気にならなくなった。素晴らしい進歩だ。




「エレンが作った2枚の壁の間に、巨人を誘い込んで、上から丸太を…」




しかし現在、スヴェンの機嫌は頗る悪い。

図を描きながら丁寧に説明をするシャオを、長い前髪に隠れた目でじとっと見つめ、煙草の煙をフーッと吐き出す。長めの金色の髪は襟足がピョンピョンと跳ねているが、だらしないといった印象は受けない。それは彼の顔の造形が妙に整っているからだろうか。




「…ちょいちょい」



待て、と片手を突き出し、ガシガシと頭を掻いたあと、スヴェンは煙混じりの深い溜め息を吐く。




「はい、どこか解らない所がありましたか?」



「いやいや、クソメガネさんご所望の品のことじゃねぇよ…」



キョトンとするシャオを見て苛々が募る。


久しぶりに会った彼女は相変わらず鈍感だった。巨人バカで鈍感な彼女は、初めて会った頃と何も変わらないように見えるのに。




「…なにお前、結婚すんの?」




「あ!はい…そうなんです」




「3日後に結婚式?だって?」




「そうなんです!兵団の中だけで、慎ましく挙げるんですけど…」



「俺も来いって?お前の結婚式に?」



「あ、はい…!是非、技術班の皆さんと来て頂けたら、嬉しいんですけど…。ひょっとして…スヴェンさん…迷惑…でした…?」




眉を下げて顔色を窺ってくるシャオを無言で見返した時、はらい忘れていた煙草の灰がぽとりと床に落ちた。




『いやぁ〜残念だったねスヴェン!虎視眈々とシャオのこと狙ってたのに、あっという間にリヴァイに取られちゃったねー!』




珍しく一人でひょっこりと技術班を訪れたハンジにそう教えられ、スヴェンがピシッと硬質化したのは昨夜の話だ。皹も入った気がする。



そう、スヴェンはシャオに惚れていた。

この子は自分より8つも年下だし純潔(処女)だからせめて20歳になるまでは待っておこう…とお利口さんに待っていたらいつの間にか人類最強さんにかっさらわれてました、と。泣きたい。


前髪をかきあげると、スヴェンの翡翠色の瞳が真っ直ぐにシャオを捉える。トロスト区防衛戦以降、暫く顔を見ていなかったので心配していたが、シャオが無事で本当に良かった。
彼女が今生きていて、その上結婚式を控えているという話を聞けば、悔しさもあるがそれ以上に喜びの方が大きい。



「…迷惑な訳あるか。これ以上ないってくらい盛大に祝ってやるよ」



「わぁ、ありがとうございます!」



ふふ、とはにかむシャオは本当に幸せそうで、自分が彼女に寄せる好意には全く気付いてもらえなかったんだと解ると、スヴェンは苦笑いを浮かべた。


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