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右上に"巨人の処刑台"と書かれた見事な図を眺め、スヴェンは口を開く。



「つまり俺達はこの丸太を落下させる機械だけ作れば良いと。壁はイェーガーが生成したんだろ?」



「そうです、お願い出来ますか?」



この時、お願いできる?と手を合わせてウィンクをするハンジの姿がスヴェンの脳裏を過った。何故だ。




「…取り合えず、イェーガーが作った2枚の壁を実際に見ねぇことには始まらん。案内しろ」



「はい!」



行きましょう、と笑うシャオの隣に立ち、スヴェンは大分下にあるお団子頭をがしっと掴む。
そして、あぁ、崩れちゃうのでやめてください!と慌てるシャオを見るのが、スヴェンの密かな楽しみであった。



厩舎に寄って馬に跨がり、二人はトロスト区外壁を目指す。調査兵団本部はトロスト区近郊にあるため、そんなに時間は掛からない。




「旦那は?」




「リヴァイ兵士長です!」




「…知ってるよ…。今日居んのかって聞いてんだ」




「あっ…兵長は中央に居るので居ません」




即位後すぐにヒストリアは、地下街、そして壁の端から端まで調べあげ、孤児や困窮者を内地の牧場へ集めて面倒を見ている。王室の公費や没収した議員の資産を牧場の運営に回したり、貧困層の支援に当てている。これには地下街の出身であるリヴァイの後押しもあった。卓上での仕事が増えたリヴァイは、その合間を縫って硬質化実験や兵士達の訓練に顔を出してくれるが、それでも週の殆どは中央に身を置いている。



「お前らいつからデキてたんだ?」



「えーっと、20歳の誕生日の後だから…2ヶ月前くらいです!」



「…付き合って2ヶ月で結婚…」




スヴェンは手綱を握り締め、遠い目をして一人呟く。この子の純潔が人類最強の男に奪われたと思うだけで泣けてくる。

一応あの人もこの子が成人するまで待っていたのかと、そこは評価してやるが、いや、それにしてもプロポーズするには早すぎる。


いやいや、シャオが兵士ということも考えて彼も焦っていたのかもしれない。第57回壁外調査では大勢の調査兵が殉職した。女型の巨人を拘束する罠を仕掛けるためスヴェンも調査に参加していたが、地獄のような現場を目の当たりにし、シャオが生還したのは奇跡に等しいと今でも思う。



(…そうか…なんでコイツがリヴァイ班に?と疑問に思ってた訳だが…そういうことか…)



天下のリヴァイ兵士長殿が私情を絡めるようになるとは、本当の人類最強はリヴァイを動かすこの女かも知れないと、スヴェンは身震いを覚えた。







◇◆◇◆◇◆







トロスト区の外壁に直角に当たるよう、エレンの硬質化能力によって二つの壁が生成された。壁と壁の間には巨人一体が辛うじて通れるくらいの隙間がある。

ハンジはその壁の上から壁外を見渡し、奪還作戦に向けて新たな武器の構想を練っていた。



「おー、こりゃあ見事」



聞き覚えのある怠そうな声音に顔を上げると、愛煙している煙草の匂いを撒き散らしながら、技術班班長のスヴェンがずるずると靴底を磨り減らすような歩き方でやって来る。

彼はいつ見てもこうだ。シャキッとしている所など見たことがない。



「やぁスヴェン、見てみろこの壁!エレンが作ったんだ!」



「想像以上だな…ここに巨人を誘き寄せて上から丸太を落としてブッ倒すと」



「そういうこと!さっさと長さを測って作ってくれ!」



「相変わらずだなクソメガネさん。俺達に対する扱いの酷さ」




そう軽口を言いながらも、スヴェンは、よっこいせ、と壁の上に屈み、早速測量を開始する。

その姿を、エレンは横になりながら、ぼうっと眺めていた。壁を生成し巨人化を解いた後から、全身の倦怠感が酷く、暫く休むように言われている。


こちらを見つめる金目に気付いたスヴェンはくわえ煙草のまま、「よぉ」とエレンに笑いかけた。




「良いもん作ってくれたな。おかげで俺達は徹夜確定だ」



「…は、はい…?」



彼の姿を何度か見たことはあったが、会話をするのはこれが初めてだ。棘のある言葉に動揺を隠せずにいると、スヴェンの後ろからハンジがやって来て、まるでエレンが見えていないかのように捲し立てる。



「そうだスヴェン、言い忘れてた!対鎧の巨人用の新武器も開発したいんだけど!ほら、ブレードじゃ刃が立たないからさぁ、何か新しい武器をー…「あーハイハイそれはコレ終わってから!!」



剣幕でハンジを無理矢理黙らせ、舌打ちと共に作業を続けるスヴェン。軽口を叩きあっているが、その手の動きは素早い。こういうのを職人技っていうのか、と感心する。

ハンジにスヴェンと呼ばれた男は兵長と正反対の人だ、とエレンは率直に思った。

長身で、俯いた時に見えた目は垂れ目。無精髭を生やし、怠そうな歩き方に、面倒臭そうな受け答え。


それでもハンジと対等に会話をしているのだから、この人もきっとすごい人なのだろう。

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