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オルブド区。

ウォール・シーナ北の突出した城壁都市に辿り着いたエルヴィンとハンジ、そしてリヴァイ班は、この区を担当する駐屯兵団に現在の状況と今後の動きを説明した。


目標の巨人はより大勢の人間が密集する方へと吸い寄せられる、所謂"奇行種"。そのため、この地区の住民を急にウォール・シーナ内へ避難させれば、目標はそれに引き寄せられウォール・シーナを破壊し突き進む事が予測される。



「つまり…あの巨人はこのオルブド区外壁で仕留めるしかありません。そのためには囮となる大勢の住民が必要です」



「なっ……!?」



住民を囮に使うというエルヴィンの提案に、オルブド区の駐屯兵団達は愕然とした。非難の目を向けられながらも、エルヴィンは動じることなく冷静に説明を続ける。



「ただし、民の命を守ることこそが我々兵士の存在意義であることに変わりはありません。オルブド区と周辺の住民には緊急の避難訓練と称し、状況によってオルブド区内外へ移動させやすい態勢を整えます」



目標はかつてないほど巨大な体だが、それ故にノロマで的がデカい。壁上固定砲の砲撃は大変有効な筈ですが、もし、それでも倒せない場合は……



そこまで言ったところで、エルヴィンの青い瞳は金色の双眸を持つ少年へと向けられる。




「調査兵団最大の兵力を駆使するしかありません」





人間が手にした、巨人の力で。




兵士達に期待と畏怖が綯交ぜになった複雑な視線を向けられ、エレンは顔を強張らせる。礼拝堂地下で、新たに手にした"ヨロイ"の能力で、人類がエレンに寄せる期待は更に膨れ上がったように思えた。



……やるしかない。



北側の内地に住まう寄せ集めの兵士達は、エルヴィンの指示に大人しく従うことにした。

それが人類が生き残れる唯一の方法だからだ。






◆◇◆◇◆◇







ほんの一時間の仮眠の後、朝焼けと共にリヴァイ班は壁の上に上った。滅多に煙を上げることのないこの地区の壁上固定砲は、まるで新品同様できらりと朝日を反射する。




「こんな早朝に叩き起こされて避難訓練だって言われりゃ…今日暴動が起こったって不思議じゃないな」



「しかも王政が兵団に乗っ取られた直後ときてる!」



兵団が民衆に自分達の力を誇示しようとしてると思われても不思議じゃないぜ、と話しながら、ジャンとコニーは壁の中の街を見下ろす。平和ボケした住民たちの顔。巨人の脅威がすぐ側まで迫っていることも知らずに。まるでタイムスリップして、5年前のシガンシナ区を見下ろしているかのようだ。



束の間の平穏に談笑する104期生達の横で、シャオはスケッチブックを開き無心で筆を走らせている。たった一時間でも質の良い睡眠がとれたのか、シャオの目は爛々と耀いていた。



「…………」



何をそんなに一生懸命描いているのか。不審にに思ったリヴァイはシャオの後ろに立ち、彼女の手元を覗き込む。そこに描かれているのは巨人化したロッド・レイスだった。しかもかなり完成度が高い。
以前、硬質化実験の時、ハンジ直属の部下であるモブリットがエレンの顔をスケッチしていたが、あの時もこいつに描かせた方が良かったんじゃないかと思う程のクオリティの高さである。芸術の類いには一切興味関心がないリヴァイでもそう評価する程、その絵はリアルで今にも動き出しそうだ。しかし、残念なのはその絵の右上に『超超大型』と走り書きされているところである。せめて字も綺麗に書いてほしかった。




「……お前に絵描きの才能があったとは」




「ありがとうございます、忘れないうちに描いとかないと……!」




先の戦いで右腕を負傷したハンジの代わりに、シャオは超超大型巨人の記録を残すことに集中している。自身の目で見た情報を出来るだけ正確に文字に起こすことも忘れない。

熱心に手を動かすシャオを横目で見てリヴァイは、やはりこいつは巨人バカかと呆れた様子で溜め息を吐く。




「……シャオ。お前はどうやらクソメガネと同類らしい」




「え!?ありがとうございます!」




「褒めてない」




「いいえ、私にとっては最高の褒め言葉です、兵長!」



気持ちよく笑うシャオにリヴァイは複雑な表情を見せる。お前も常軌を逸した変人だと苦言を呈したつもりなのだが、そんなに良い顔をされては否定するのも忍びない。


腕を組みじっとシャオの綺麗な横顔を眺めていると、突然104期の連中が騒ぎ出したので、リヴァイは何事かとそちらに視線を移す。するとそこに調査兵団の団服に身に包んだヒストリアの姿があった為、思わず目を瞠る。ほんの一瞬の後、今度は苦虫を噛んだような顔をして、リヴァイはヒストリアに詰め寄る。

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