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結局一睡も出来なかった。




「どうしたジャン…寝不足か?」



「………いえ…」




優雅に紅茶を啜っているリヴァイを恨めしげに見つめ、目の下にくっきりと隈が出来ているジャンはパンをかじる。今の質問絶対わざとだよな、とエレンに視線を投げ掛けるが知らんぷりをされた。



シャオは何事もなかったかのように朝食のスープをよそっている。しかし、皆が見ていない時に口元をおさえて欠伸をしたのをジャンは目撃した。余程疲れたのだろう。



(だってあの後2回戦……)



ギシギシというベッドの軋む音が耳にこびりついて離れない。リヴァイ兵長、涼しい顔して絶対性欲強いだろ……ガクッと肩を落とすジャンにリヴァイは一度視線を向けた後、シャオに「今日やることを説明しろ」と指示した。


はい、と台所に立ったままシャオは笑顔で振り向く。ミルクティー色のお団子が揺れた。






「今日はエレンの硬質化の実験です!」







◇◆◇◆◇◆







隠れ家から馬で約一時間程走った山の中に、洞窟がある。その洞窟の前にある広場で、エレンの硬質化実験は行われた。




「どうしたエレン!!もうおしまいか!?立てぇえ!!人類の明日が君に懸かっているんだ!!」




山奥に響くハンジの声。その隣でスケッチをとるのは彼女の部下であるモブリット。

ハンジは実験になると興奮して我を忘れてしまう事が多い。今も三度目の巨人化で疲弊し、思うように動けないエレンに崖の上から檄を飛ばしている。
その右隣で、リヴァイが冷静に状況を整理した。




「…メガネ。今度は様子が違うようだが?もうヤツは10mもねぇしところどころの肉も足りてねぇ。そしてエレンのケツが出ている」



「わかってるよ!!」



言われなくてもそんなこと!と、ハンジはリヴァイに噛みついた。この二人の温度差はいつも激しく、なぜ仲良くやっているのかモブリットには不思議で仕方がない。


倒れたまま動かないエレンを放っておけないのか、馬に乗ったミカサが駆け寄っていくのが見えた。
それを見てリヴァイは舌打ちをする。まだ合図は出していないのに。



「オイまた単独行動だぞあの根暗野郎は…処分を検討しとくか?」



「待って、下にシャオが居るから…彼女に判断を任せよう」



ハンジによる巨人化実験の右腕としての経験が長いシャオなら、適切な判断が下せる筈。崖の上から三人は下の広場の状況を眺めていた。





シャオは一度、エレンの本体を引き剥がそうとするミカサを止めた。



「少しだけ待って、ミカサ!1分!」




これ以上今日は巨人化出来ないかも知れない。ならばこの機会を逃してたまるかとシャオは慌ててミカサを制す。しかしミカサは聞く耳を持たない。



「これ以上は無理です!切り離します!」



「あぁぁ、待って待ってお願い!エレン!エレン聞こえる!?今何を考えてるの!?ここに書いてお願い!!」


そう言ってブレードでエレンの指を叩く。地面に文字を書いてほしいと促したのだ。するとエレンはピクリと動き、指で地面に何かを記した。ハンジたちの場所からなら、文字となって見えるだろうか。




「ハンジさーん!!」




崖の上に向かって大きく手を振り、解読してください、と頼もうとした時に、シャオの頭上に影がかかる。錯乱したエレンがシャオを潰そうと手を上げたのだ。



「!シャオさーー…」




その姿を見て飛んできたのはすぐ近くに居たミカサではなく、崖の上に居たリヴァイだった。一瞬でシャオを抱き上げ、エレンの手が届かない場所まで飛び退く。叩き付けられた巨人の右手は広場に跡を残した。



「あ、ありがとうございました、兵長…」



「馬鹿野郎!死にてえのかお前は!」



ガン!と容赦なく頭を叩かれて視界が揺れる。大人になってから怒られて頭を叩かれるなんてことが起きるとは思わなかった。しかもたん瘤が出来そうな位の力で。ぐわんぐわんと揺れる頭に茫然とし思わず、痛いです、と呟くと瞬時に「躾だ」と返される。


広場からは下に降りてきたハンジの声が聞こえた。
見れば意識を失ったエレンの本体をほじくり出そうと引っ張っている。


「あぁ…こりゃすごい、さっきより強力にくっついてるぞ!!巨人の体との融合が深くなって一つになりかけているんだ!もし放っといたら普通に巨人になっちゃうんじゃないかこれは!!試しちゃダメか!?人としてダメか!?」



「ハンジさん代わってください!!」



無理矢理引っ張るものだからエレンの皮膚からは血が出ている。それを見て青くなったミカサは止めようとするが、ハイになったハンジを止めるのは相当難しい。



「うおおぉ見ろモブリット!!エレンの顔が大変なことになってるぞ!!急げ!!スケッチしろ!!これ元の顔に戻るのか!?後で見比べるためにいるだろ早くしろ!!」



「分隊長!!あなたに人の心はありますか!?」



ハンジの指示に従いモブリットがスケッチを始めたのを見て、ミカサの堪忍袋の緒も切れた様子。ミカサは指示を待たずにブレードでエレンを切り離すと、彼の身体は無事修復を始めたようで煙に包まれる。
たちまち上がった狼煙を見て瞬時にハンジは我に返ると、「総員直ちに撤退せよ!!」と指示を出す。



巨人になるとどうしても狼煙が上がってしまう。

自ら敵に居場所を知らせるような真似はしたくはないが、こればかりは防ぎようがない。出来ることは、目撃者がいないか隈無く調べることだけ。


リヴァイ班の面々は敵の追跡を免れようと何組かに分かれ、隠れ家へと急いだ。






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