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女型の巨人と思わしき人物を見つけた、とエルヴィンは語り出す。昨日の今日でその人物を特定できたのは、元々104期生を疑っていたエルヴィンの元に、実際に女型と対峙したアルミンが推察を持ちかけてきたからだ。




「彼女の名は、アニ・レオンハート」




「…アニが、女型の巨人…!?」




よく知った人物の名を出され、エレンは愕然とする。




訓練兵団で3年間を共に過ごしたアイツが、俺の班員を殺した巨人…?




ショックを受けているエレンに、エルヴィンはテーブルの上で手を組み、無情にも話を続ける。



「目標は普段ストヘス区中で憲兵団に所属している。今度こそ目標ー…女型の巨人を捕らえるために作戦を立てた。決行日は明後日…その日に我々とエレンが王都に招集されることが決まった」



「ちょ、ちょっと待ってください…!」



それ以上話を聞いていられず、エレンは頭を抱える。

エルヴィン団長が"目標"と称するのは、本当にアニのことなのか?


アニとは特別親しかったわけではない。アニはいつも一人でつまんなそうにしていたし、誰とも馴れ合おうとはしなかった。それでも対人格闘の訓練で、いずれ役に立つから、とぶっきらぼうに技を教えてくれたアニを、嫌いになることはなかった。クールなアニが表情を崩さず、か弱い乙女なんだから、と自称して周囲を笑わせることも、時偶見せる笑顔が淋しそうなのも、エレンは仲間として好意的に思っていた。



「なぁ、アルミン…お前の推察ってなんだよ…どういうことだ…?」



責めるように問い質してくるエレンに、アルミンは視線を合わせることなく、感情を殺して説明を始める。



「女型の巨人は、エレンの顔を知ってるばかりか…同期でしか知りえないエレンのあだ名"死に急ぎ野郎"に反応を見せた」








『ジャン!仇をとってくれ!右翼側で本当に死に急いでしまった死に急ぎ野郎の仇だ!!そいつに殺された!!』






女型は一度、アルミンを殺さずに見逃した。フードを被っていたアルミンの顔を確認しただけで去ったということは、女型は自分とエレンの顔を知っている104期生、そして壁外調査に参加しない…つまり調査兵団以外の人物ではないかと疑う。
二度目に対峙した際に機転を利かせてアルミンがそう叫んだ瞬間、予想通り女型は動きを止めた。つまり、アルミンの読みは正しかったと言える。



「何より大きいのは、2体の巨人を殺したと思えるのがアニだからだ。殺害には使い慣れた自分の立体機動装置を使って…検査時にはマルコの物を提示して追及を逃れたと思われる」



検査時、アニの隣にいたアルミンは、彼女の立体機動装置が亡くなったマルコの物だとすぐに気付く。わずかなキズやへこみだって、一緒に整備した思い出だから…すぐに解った。




「アニは…女型に顔が似てると私は思いました」



ミカサも、アルミンの推察を指示するかのようにそう言う。なんの根拠もない話だが、少しの不穏分子でさえ、放っておける状況ではなくなっているのだ。


反論する力を失ったエレンを可哀想にも思ったが、エルヴィンは続けて2日後に決行するアニ捕獲作戦の説明を始めた。








◇◆◇◆◇◆









エルヴィンは次の仕事があり、説明を終えると足早に古城を後にした。ハンジにも明後日の作戦で使用する兵器の調整の仕事があったが、本部に戻る前、席を立つリヴァイを呼び止める。



「リヴァイ、ちょっとシャオに会わせてよ」



「…あいつは寝てる」



「薬持ってきたからさ。診察も兼ねて」



「起きねえよ、寝かしといてやれ。薬は貰っておく」




左足を庇うように歩くリヴァイは、眉を寄せたまま振り返り、右手を差し出す。薬を寄越せ、と無言で示すリヴァイに、ハンジは溜め息を吐く。
談話室にて難しい顔で話し込むエレン達をちらりと見て、「ちょっとアッチで話そう」と階段の方を指さした。


その足じゃ階段を上るのも大変だろうとハンジが手を貸すと、渋々ながらリヴァイはその手をとる。



「…シャオの様子、おかしい?」



もう昼前だが頑なに、起きない・寝かせろとリヴァイが言うのには、過眠なのかそれとも不眠なのか、何か理由があると踏んだ。

リヴァイは眉間の皺を濃くして呟く。



「馬鹿みてぇに性欲が強ぇ。搾り取られた」



もう出ねぇ、と冗談めかして言ったが、ハンジは笑わなかった。



「…ねぇリヴァイ」



階段の踊り場にて、緊迫した表情のハンジが手を離し足を止めたので、リヴァイは黙ってそれに向き合う。ごそごそと懐から取り出した薬を見せながら、ハンジは言った。



「この薬。他の薬との併用はあまり良くないみたいなんだ」



「あ?」



「シャオには以前他の薬も処方してるから」




「…それは、初耳だな。どっか悪いのか?」




明らかに動揺を見せたリヴァイの目を見て、ハンジは確信する。シャオはリヴァイに話していないのだと。

これを自分が伝えてしまうのは、果たしていいことなのか悪いことなのか、判断に苦しむ。

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