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シャオの目の前には地獄絵図が広がっていた。



女型の巨人に群がる巨人達。



夥しい数の巨人が、女型の腕に、脚に、顔に、噛み付いている。



先程の絶叫で女型は巨人を呼び寄せた。
それは人間に反撃する為ではなく、自身を巨人に食わせて情報を抹消するためであった。

敵にはすべてを捨て去る覚悟があったということだ。




「総員撤退!!」




肉が喰われ骨へと変わりゆく女型を眺めることしか出来ずにいる兵士達に、エルヴィンがついに撤退命令を出す。




「巨人達が女型の巨人の残骸に集中しているうちに馬に移れ!荷馬車は全てここに置いていく!巨大樹の森西方向に集結し陣形を再展開!カラネス区へ帰還せよ!」




エルヴィンは最初、女型の巨人を死守せよと総員に戦闘命令を下したが、この数が相手では無理だと判断したようだ。


兵士達が速やかに行動を始める中、シャオは目を細めて女型の巨人の姿を見つめていた。




あなたは誰なの?
エレンの友達?





「ハンジ!」



「あぁ、リヴァイ!参ったね、実益は皆無」



「全くだ」




必死に剣を振るったが、硬質な皮膚に覆われた体は全く刃が通らなかった。手応えのない任務は後味が悪く、リヴァイの機嫌は悪い。



「世話になったな。シャオ、あいつらと合流する。グズグズすんな」



突然現れたリヴァイに背中を押され、シャオは慌てて体勢を整える。この辺りは死骸の蒸気で信煙弾での連絡は期待できない。



「どうしましょう?」



「戻って呼んでくるしかねぇだろ。奴ら、そう遠くに行ってなきゃいいが…」



女型が食い尽くされるのも時間の問題だ。
この時間がない状況で、リヴァイを呼び止めたのはエルヴィンだった。



「待てリヴァイ。ガスと刃を補充していけ」



「時間が惜しい。十分足りると思うが」



苛々と睨み付けてくるリヴァイに全く動じることはなく、エルヴィンは強い口調で言い放つ。



「命令だ。従え。」



「………」



「シャオ、ガスの補充を手伝ってやれ」



「は、はい!」



慌てて補充物資を取りに行くシャオの姿を眺めて、リヴァイは舌打ちを漏らしながら、それでも、了解だ、と答える。




「お前の判断を信じよう…」




時間が無いのに補給を指示したのには明確な理由がある。

撤退命令を下した後、エルヴィンの脳裏にハンジが出した推論が過ったのだ。ハンジの推論は、超大型巨人が消えた時その中身を誰も見ていないのは、中身が立体機動装置を予め装備していたから蒸気に紛れて素早く逃げることが出来たのでは、というものだ。

そして今回、エルヴィンは女型の中身が巨人に食われるところを見ていない。


中身がまだ生きているとして、更に力を残す術を持ち合わせているなら、再び巨人を出現させることだって出来るかもしれない。






◆◇◆◇◆◇






ポイントから少し離れれば蒸気は消え、視界は良好となった。



「兵長!信煙弾を使いますか?」



薄暗い森の中を飛び回りながら、シャオは前を行くリヴァイに呼び掛ける。



「ああ…いや、いい」




曖昧に答えるリヴァイは、周囲を警戒している。
裏切り者がまだ居るとして、この無防備な状況では、居場所を特定出来る信煙弾の活用は危険だとリヴァイは判断した。

シャオを護りながら戦うことになる今の状況では、なるべく無駄な戦闘は避けたい。



「…それにしても」



チラッと後ろを振り向き、多少息を切らせてはいるがしっかりついてくるシャオを見て、リヴァイは口角を上げる。



「見違えたな…城に戻ったら褒美をやる」



彼が立体機動のことを言っているのだと気付いて、シャオは苦笑する。確かに、リヴァイ班に入る前よりも体が動かしやすくなった。初めてリヴァイから指導を受けた際、姿勢から徹底的にダメ出しをされ、矯正されたものだ。

訓練兵時代の3年間何やってんだお前、死なねえ工夫を怠るなとこっぴどく叱られたのも、今となっては有り難みが解る。



「わぁ、早く帰りたいです!」



褒められて余程嬉しいのか笑うシャオに「この淫乱」と返すと、シャオは顔を真っ赤にする。



「ほ、褒美って…」



そういう行為のこと?とシャオが口をつぐみ、それを見たリヴァイは鼻で笑う。




早く帰ろう、古城に。

リヴァイ班の全員で。





二人が同じことを思った矢先、




森の奥に閃光が走る。




「「!!」」





それと同時に、周囲に叫び声が響き渡った。
人間のものではない。
これは巨人の咆哮だ。


しかし、これは先程の女型の声とは違う。
そうなると答えは一つだ。




「エレン…?」




戸惑いの色を隠せないシャオの声を聞きつつ、リヴァイは閃光が走った方角に進行方向を変える。

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