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間接の固定が済んだのを見計らって、リヴァイはシャオの背を押した。



「ハンジの所に行ってろ」



「はい!」



指示を出したリヴァイの視線は女型を捉えている。任務を遂行すべく神経を研ぎ澄ませているリヴァイの纏う空気は冷たい。さっき優しくシャオの頬を撫でてくれた彼とは全くの別人だ。

エルヴィンの元へ向かうリヴァイの後姿を見送った後、「シャオー!」と手を振ってくれているハンジの元へ急いだ。



「無事で良かった!!今回はかなりヤバかったんじゃないのー!?大丈夫?失禁してない?」


「それはギリギリ大丈夫でした…」



へなへなと腰を抜かし、枝の上に座り込むシャオの頭を軽く撫で、ハンジはギラギラと燃える目を女型に向ける。



「ふん!」



そして傍らに置いてある拘束兵器を作動させた。
この兵器の最大の特徴は、巨人が傷を再生すればするほど、身体に刺さった銛が抜けにくくなる仕組みにある。厄介な再生能力を逆手にとったという訳だ。



「これでもう痒いとこあっても掻けないね、身じろぎ一つ出来ないよ多分一生」



嬉々としてそう言うハンジは笑顔だったが、その瞳の奥はいつになく闇が深い。犠牲者が予想以上に多く出た事が理由の一つであろう。
リヴァイ班は、後列の班が囮となってくれなかったらここまで誘導出来なかった。誰かの命を使い時間稼ぎをする非情な作戦は、シャオの瞳にも同様の闇を落とす。



「捕らえたのは女型一体、ですね…」



「うん?」



「いえ…私は複数犯だと思ってたので」



とりあえず一人拘束できたのは良いが、敵が複数だとしたら、また別の作戦を決行しなくてはいけなくなる。多大な犠牲を払って。正直、今回の作戦でシャオは大分気が滅入ってしまった。眉毛をハの字に下げるシャオに同情しつつも、ハンジは強気な声色を変えない。



「次はこんな大規模な作戦にはならないかもよ?女型の中身に拷問をかければ芋づる式に拘束できる可能性だってある」



「拷問…」



背すじが凍る一言に、シャオは血の気が引く。



「でも、あれの中身は…104期生の可能性が高いって…」



今回、トロスト区を襲撃した巨人が壁を完全に破壊しなかった理由。それは、中止する必要があったからだ。せっかく壊した扉が塞がれてしまうのも放置した。彼らが壁の破壊よりも重視する何かがあの時に起こったのだとしたら、それはエレンが巨人化して暴れ回ったこと以外には考えにくい。


つまり5年前、同じ方法で壁の内側に入ってきたであろう諜報員は…


ーー…あの時、あの場所で、
エレンの巨人化を近くで見ていた人間。


即ち、104期訓練兵の誰かである可能性が高い。



シャオはついこの間、全員ではないが、エレンの友人である104期生と知り合ったばかりだ。彼らの幼さの残る屈託のない表情を見て、間近に迫る壁外調査の不安感から一時的に解放された。



「……拷問なんて…」



ぽつりと呟くシャオに、「まだ104期生と決まった訳じゃないよ」とハンジはすかさずフォローをいれる。



「…しっかし、肝心の中身さんはまだ出せないのか?何やってんだよリヴァイとミケは…」




拘束された巨人を仕留める事など、あの二人にかかれば朝飯前の筈なのに、今回は大分手子摺っているらしい。

ハンジの呟きにシャオは心配した様子で立ち上がる。



「何か、想定外のことが起きてるんでしょうか」



「壁外に出たら想定外のことばかりだからね…もう少し近くまで行ってみる?」



巨人の足元近くのこの場所からは、リヴァイとミケの姿は確認出来ない。ハンジの提案にシャオは頷き、立体機動に移ろうとしたその時だった。




鼓膜が破れるのかと思うほどの断末魔が轟いたのは。





「「!?」」





ぎぃやあああぁぁ、と悲痛な断末魔が響き、シャオは立ち眩みを起こした。樹から落ちないように両足で踏ん張り、咄嗟に膝をつける。

耳に残る慟哭にシャオは身震いした。




「何事!?リヴァイがやったの?」




ハンジは騒然としてシャオの手首を掴み無理矢理立たせ、「私達も行こう」と急かす。ポイントに着いたらシャオを頼む、とリヴァイから申し付けられているので、ハンジ個人で行動が出来ないのだ。


二人は立体機動装置を使い、女型の巨人の項近くへと急ぐ。

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