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エレンが巨人化したということは、班に何かが起きたということだ。
逸る気持ちを抑えきれずに進んでいくと、不意に視界に入った巨木に、一人の兵士の遺体がワイヤーでぶら下がっているのを確認する。
シャオが目を凝らすと、その遺体は知った顔をしていることに気付く。巨人にするように項を削がれ、白目を剥いているその兵士は。
「…っ!」
グンタさん、ととても声には出せなかった。
リヴァイも気付いたらしい。
グンタの遺体にチラリと目を向けて、先に進む。
シャオの身体は小刻みに震え出す。
少し進んだ先の地面には、上半身だけの姿になったエルドの遺体があった。天を仰いでいるその昏い瞳は、無念だと二人に訴えているように見えた。
口元をおさえるシャオに気付いても敢えて何も言わず、立ち止まらず、リヴァイは先を急ぐ。
その30m先の地面にはオルオが俯せで倒れていた。巨人に後ろから叩かれたか蹴られたかして、地面に叩き付けられたのだろう。いつも軽口を叩いていた口からは、赤黒い血が流れている。
シャオは泣かなかった。
不思議なことに、涙は全く出てこない。
ただ呆然と遺体の確認だけをする。
そして、その先の巨木に正面から凭れるようにして、ペトラが眠っていた。
空を見つめているペトラの髪は後ろに流れ、その死に顔を露にしていた。もう何も映すことがない、虚ろな目は開いている。
シャオは無言でペトラの傍らに立ち、その目を片手で覆うと、開いていた瞼を閉じてあげた。
その冷たさに息を呑む。
「シャオ。この奥で恐らくエレンと女型が戦っている」
状況を語る冷静なリヴァイの声に、シャオは気丈にも頷いてみせる。この奥から戦闘中だと思える地鳴りが聞こえてくるのには気付いていた。
「俺はエレンに加勢する。お前は馬を連れてこい。近くに繋いである筈だ」
「………っ、」
はい、と答えようとしたのに、声が出てこない。それに自分でも驚き、シャオは喉をおさえる。
「馬は三頭だ。解るな?行け」
なるべく優しい声を出し、シャオの背中を押してやると、彼女は頷いて飛んでいく。
涙も見せず、取り乱しもせず、静かに仲間の死を受け入れた彼女にリヴァイは感心した。
あいつはやはり兵士だ、と。
リヴァイは咆哮が轟く場所へ急ぐ。シャオを一人にすることになるが、彼女を戦場から遠ざけた。
この選択は間違っていないと信じたい。
◇◆◇◆◇◆
空虚な心を抱えながらも、シャオはリヴァイの命令に従い、馬を探しに行く。
七頭の馬はすぐに見つかった。
シャオは自分の愛馬とリヴァイの馬、そしてエレンが可愛がっている馬のロープを切る。残された四頭の馬からも、ロープを外した。
ついてこれたら、ついてきて。
微笑んでそう言おうとしたが、やはり声にならない。
「…っは、…っ」
声を出そうと試みるが、どうしても発声することが出来ない。おかしい。今までの人生で声をどうやって出すかなんて考えた事もなかったため、シャオの額に汗が滲む。
…いや、今はそんなことはどうでもいい。
まずは撤退。兵長と一緒に、エレンを連れて壁の中に戻る。必ず帰る。
馬に跨がり手綱を握りしめ、二頭の馬を引き連れて駆け出した。
途中、また四人の遺体の合間を駆け抜ける。
「………っ、………ぅっ!!」
"調査兵団特別作戦班所属、
エルド・ジン
グンタ・シュルツ
オルオ・ボザド
ペトラ・ラル
以上の4名は、自分の使命を全うし
壮絶な戦死を遂げました…!"
声にならない声でも、
シャオは高らかにそう叫んだ。
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