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信じられない、と目を向けてくるエレンに、やはりリヴァイはしれっと答える。



「あそこで俺がシャオに駆け寄っていたらどうなった?お前は奴等に殺された…わざわざ教えてやった半殺しにする方法なんか、混乱した頭では思い出せねぇだろうからな」



それを聞いてエレンは息を呑む。




「…結果、アイツもお前も生きてる…それでいいじゃねぇか。俺は自分が正しいと思ったことをしたまでだ」



あの一瞬でリヴァイはシャオを庇い、エレンを護ったということだ。多くは語らず最善の行動をとった。頭で理解した瞬間、この人には一生敵わないだろうと痛感した。この人だから、シャオさんのような人をものに出来るのだろう。悔しいけれど、完敗だった。

エレンは膝に顔を埋め、グッと拳を握り締める。脳裏を過る初恋の人の笑顔に、胸がキリキリと痛んだ。その痛みに、あぁ自分は割と本気で恋をしていたんだな、と気付く羽目になる。




「兵長、俺…シャオさんに惚れてました」



「…そうか」



「…それだけですか」



意を決して告白したのにも関わらず反応が薄いリヴァイに、エレンは乾いた声で笑う。表情に乏しいこの人がどんな風に恋愛を始めたのかが非常に気になる。エレンはリヴァイ兵長がシャオに甘えている姿を想像してしまい、込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。



「残念だったな、とでも言ってほしいのか?」



「それはちょっと…苛つきますけど…」



「なら放っておけ。さっきも言ったが、別に隠しちゃいねぇが言うつもりもなかったんだよ。あのクソメガネ…」



チッと面倒臭そうに舌打ちをしたところで、階上から鈴を転がすような声が聞こえてくる。



「ハンジさんがいらっしゃいました〜」



噂をすれば何とやら。クソメガネと口にした瞬間の到着とは、やはりハンジは何か持っているとしか思えない。



「オイ…行くぞ」



「は、はい!」



促されてエレンは立ち上がる。リヴァイはチラリと顔色を窺うと、やはり緊張を隠せないようだ。自分に刃を向けてきた班員達は、エレンにとって"脅威"と認識されてしまったらしい。班内の確執…これは悪い兆候だが、リヴァイは此処に居る全員を信用していた。信用してあるのは力だけではない。



人として、だ。



居間ではリヴァイ班の五人とハンジが待っていた。



エレンは扉を閉め、意を決した。

「クソでも長引いたか?」「そんなことないよ、快便だった」と軽口を叩き合うリヴァイとハンジの横を通り過ぎ、椅子に座っているシャオの前へと進む。

蟀谷と頬にガーゼを貼った痛々しい姿でも、現れたエレンに、どうしたの?と柔らかく笑いかけてくれる。



…怪我をしたのは俺のせいなのに。



「…シャオさん、ごめんなさいっ!!」



床に付きそうな位深く頭を下げたエレンの声は震えている。突然のエレンの行動に、班員は口をポカンと開け、シャオは自分の目の前で揺れる黒髪を見つめてキョトンとしている。



「え?え?何で謝ってるの?」



「シャオさんが怪我をした原因は俺です!どうか気が済むまで殴ってください!!」



どうか煮るなり焼くなり好きにしてください!と、大袈裟に頭を垂れるエレン。それを見たリヴァイが「マゾ野郎」と罵ったのを聞いてハンジは腹を抱えて爆笑した。

そのやり取りが運悪く耳に入ってしまい、焦ったシャオは顔を真っ赤にして立ち上がる。



「エレン!顔上げて、お願いー!!」



「無理です!俺、一生かかっても償い切れない事をしました!!」



「あなたは何も悪くないじゃない!あの時はただー…」






スプーンを拾おうとしただけ。







そう言いかけて、シャオはピタリと動きを止める。




そうだ。あの時、エレンは地面に落としたティースプーンを拾おうとした。それがきっかけで"スプーンを拾おうとした右手だけ"巨人化した…。


シャオの頭のなかに、かちりと鍵がはまった音が響く。


目の前でボロボロと涙を流すエレンと、それを固唾を飲んで見守るエルド、グンタ、オルオ、ペトラの四人。呆れた顔で此方を見つめるリヴァイと、笑い転げるハンジ。此処に居る全員の顔をスローモーションのようにゆっくりと眺め、シャオは小さく呟いた。



「わかった……」




巨人化の条件が。




シャオはエレンを避けると、ヒィヒィと肩で息をしているハンジに飛び付いた。普段の彼女からは考えられない俊敏さで、何事かとリヴァイは目を丸くする。怪訝に思いシャオの表情を窺うと、彼女の瞳は爛々と輝いていた。



「なになになにシャオ?Sに目覚めたの?」



「ハンジさん!エレンは!!右手でスプーンを拾おうとしたんです!!」



首根っこを掴まれブンブンと揺さぶられると、それまでハンジの頭を占めていた"エレンを鞭でいたぶる女王様シャオ"の妄想は掻き消される。
代わりにシャオの言葉がハンジの頭を巡った。





ーーーーエレンは右手でスプーンを拾おうとした。





そのたった一言だけでシャオが言いたいことを瞬時に理解したハンジは飛び起きて叫ぶ。




「わかったーーーーー!!!」




ハンジの絶叫が狭い部屋の中にこだました。



立場が逆転し、今度はハンジの方がシャオの両肩を掴みガクガクと揺さぶっている。その勢いで揺さぶられては、華奢な彼女の身体は簡単に壊れてしまいそうだ。
興奮しているのは二人だけで、あとの六人は二人の世界に付いていけずに黙り込んだままである。暫くシャオと喜びを分かち合った後、ハンジは一つ咳払いをして呆然としているエレンの正面に立つ。



「今回巨人化出来なかった理由がわかったよエレン」



「…?」

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