( 4/5)


空高く舞い上がったベルトルトの周りは、水を打ったように静かだった。




すごく変な気分だった。

恐怖もあまり感じていないし、周りがよく見える。



きっと、どんな結果になっても受け入れられる気がした。




さっきは感情に任せてあんなことを言ってしまったが、きっと誰も悪くない。アルミンだって、調査兵団の兵士という立場だったから、心を殺してアニを捕まえたのだろう。


全部、仕方がなかった。




だって世界は……









こんなにもーー……残酷じゃないか。
















◇◆◇◆◇◆
















技術班と書かれた扉の奥からは、工具を扱う音が絶え間なく鳴り響いている。三日前、巨人の項を削ぐ唯一の武器である半刃刀身をもう少し軽くしてほしい、との要請を受け、技術班は休む暇もなく作業に追われていた。



一体いくつあると思ってんだ!?
やってもやっても終わらねぇ!!




大声で愚痴を言いたかったが、文句を言う暇があったら手を動かせ、とスヴェンは部下に口酸っぱく言ってきたので、そこはぐっと堪える。


まだ午前中だというのに、既に灰皿は山盛りになっていた。




『……班長、ハンジさんに頼まれてたやつ……受け渡し今日でしたよね?』




『あぁ?そんなん後回しだ、ブレードが先だ』




剣は兵士の命だろうが、と解りきったことを聞いてくる部下に若干苛つきながらも、スヴェンは咥え煙草のまま答える。



『でも……遅れたらあの人また文句言いに来ますよ?』




それを聞いてスヴェンの手は止まる。ズボラな癖に納期にだけは煩いあのマッドサイエンティストの顔を思い浮かべただけで、スヴェンの腸は煮えくり返りそうだった。技術班の腕を信頼してくれてのことだとは解っているが、ハンジの注文の品は難しく、しかもチェックが厳しい。折角完成した代物に、ああでもないこうでもないと難癖をつけられ、一から作り直したことだってある。



故に、スヴェンはハンジが苦手だった。
苦手というか、嫌いだった。




『……文句言わせねぇよ。この部屋に入れないから』




『『………………』』




班長の呟きを聞いた後、部下達がそれ以上言葉を発することはなかった。



暫くの間、班員達は無言で作業に没頭していた。黙々と手を動かしていると時間を忘れる。さっきまで朝だったのに、外を見たら既に夜の帳が下りている、なんてことは日常茶飯時だ。


今日もきっとそのパターンだろう、とスヴェンがぼんやり思った時だった。




ーーートントン。





控え目なノックの音が聞こえ、技術室の中に居る全員が一斉に顔を上げる。無言のまま。




『『『…………』』』





中には、我関せずと遠い目をしている者もいた。





誰かが尻を叩きに来たんだと、班員達は冷や汗を垂らし、目と目で会話をする。


誰か出ろ!!と、班員達がなすり合いを始めると、数分後再び、トントン、とノックの音がこだまする。さっきよりも更に小さな音だ。




『……班長……』



『…………』





恐らく、扉の向こうに居るのはハンジ分隊長ではない。彼女はノックなんかしない。お疲れー!と明朗快活に挨拶をしながら勢いよく扉を開けるタイプだ。では、彼女の忠実な部下であるモブリットだろうか。いや、それも違う。彼はノックの後、失礼します、と声を掛けてくるタイプだ。ではでは、半刃刀身の改良を要請してきたエルヴィン団長さまか。いやいや、それも違う。彼は、トントントン、と三回ノックするタイプだ。


この三人ではないとなると、外にいるのは一体誰だ。新手の刺客か?




すくっと立ち上がったのは、偏屈が多い技術班を束ねる、班長のスヴェンであった。



スヴェンは行儀悪く床で煙草を揉み消すと、無言で扉の前へ行き、一度部屋の中を見渡す。見守ってくれている部下達一人ひとりと目を合わせた後、意を決してスヴェンは声を絞り出す。





『…………どなた?』





声ちっさ!!!






煙草の匂いが充満する室内にて。スヴェンの問いかけから約2秒後、班員達の耳に届いたのは、鈴を転がすような声だった。






『あ、あの……突然の訪問、申し訳ありません!!席を外せないハンジ分隊長の代わりにやって来ました!!』





『………………』






そこにいるのは女の子だ。


と、思った瞬間、スヴェンの手はガラッと一斉に扉を開けていた。







PREVNEXT


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -