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「明日からエレンにはリヴァイ率いる特別作戦班に所属してもらう。そして…急で申し訳ないんだが、明日の朝には旧調査兵団本部へ移動してもらいたい」


旧調査兵団本部。古城を改装した施設だけあって趣とやらは一人前だが、壁と川から離れた場所にあり、無用の長物となった。エルヴィンの説明に付け足すように、続けてリヴァイが口を開く。


「班員は俺とエレン、俺が指名した兵士五名だ。そのうち四名には昨日までに直々に話をつけてある」


淡々と語り、リヴァイは未だ床に膝をついていたシャオに手を伸ばし、彼女の手を軽く引っ張りその場に立たせる。


驚いて見開かれた大きな瞳が真っ直ぐにリヴァイを見上げていた。



「最後の一人はお前だ、シャオ。
協力してくれるか?」



リヴァイは先程までとは違う、幾分柔らかい声でそう問いかける。とは言っても、断ることなど出来ない。シャオはリヴァイの命令には従わなければいけない。五日前にそう誓ったのだから。



「勿論です…リヴァイ兵長」



固い表情で了承したシャオに頷いて見せると、リヴァイはエルヴィンに目配せをした。シャオを此処に連れてきた理由を、ハンジは『リヴァイの機嫌をとるため』なんて言っていたが、本当は彼女にこの話をつけるために呼んだのだ。

彼女だけ急な話になってしまったのは、エルヴィンがシャオをメンバーに入れることを中々了承しなかった為である。他の四名に関しては、巨人討伐数及び討伐補佐数共に問題なかったため、すぐに話をつけに行けたのだが、いくら座学トップと言えど戦闘能力が弱いシャオは班員の脚を引っ張ると思ったのか、首を縦に振ろうとはしなかった。事実そうなることは目に見えていたしリヴァイもそれは重々承知の上だが、困ったことに理屈ではないところでシャオを求めていた。

二人の意見が合わず、日に日にリヴァイの機嫌は悪くなり、最終的にアイツがいないと何かと不便な古城での生活が成り立たないとまで言い出した。


結局リヴァイは自分の意見を無理矢理押し通したのである。


やれやれ、という諦めにも似た顔で渋々了承したエルヴィンは、不意にシャオと目が合うとヘタクソな笑みを浮かべた。




これで特別作戦班…通称・リヴァイ班は結成された。メンバーはリーダーのリヴァイ、エルド、グンタ、オルオ、ペトラ、シャオ…そしてエレンの七名だ。





◇◆◇◆◇◆




帰りの馬車は二台用意されていた。

その一つにハンジとミケ、エルヴィンの三人が乗り込み、もう一つにリヴァイとシャオの二人が乗り込む。

万が一の事を考え、エレンは今夜も引き続き審議所の地下牢に泊まるよう指示された。




馬車が走り出しても、向かい合わせに座る二人は黙り込んだままだ。口を結び俯いているシャオの姿を、リヴァイは眺めている。

先程の一喝が効いたらしく、シャオは一人の部下として落ち込んでいる。そんな彼女との距離を埋めようと、リヴァイは行動に出た。



「詰めろ」



そう言ってリヴァイが突然こちら側に移動してきたので、弾かれたようにシャオは顔を上げた。
彼は涼しい顔でシャオの左側に座り、当たり前のように肩に腕を回してきたので、シャオは戸惑う。


どんな顔をすれば良い?


ランプの灯りが困惑するシャオの顔を照らしていた。



「…何だ、その顔は」



不服そうに至近距離で呟くリヴァイに、シャオは眉を下げる。そういえば今日はまだ彼女の笑顔を見ていない。その原因が自分にあることもリヴァイはちゃんと解っている。



「…兵長の言った通りです」



ぽつりと呟くシャオの目はきらきらと潤んでいる。今にも泣き出しそうだ。



「私、人一倍訓練を受けなくちゃいけない身ですよね。訓練兵を卒業できたのも不思議でなりません…」



「シャオ」



まだ何か言いたそうにしている唇を、リヴァイは自身のそれで塞ぐ。続く言葉を遮るように。
突然の口づけにシャオは瞼を閉じるのを忘れた。

焦点が合わない程の距離にあるリヴァイの顔が視界を覆う。チュッ、と音を立てて離れると、無表情で此方を見下ろしたリヴァイが涼しい顔で言い放つ。



「仕事の話は明日聞く」



二人きりの今は上司と部下という関係ではない。

ただの恋人同士だ。


息を呑むシャオの頬を撫で、リヴァイは唇から僅かに舌を出して彼女の唇を舐める。ぴちゃ、と水音が辺りに響くと羞恥心が湧いたのか、シャオの顔は赤く染まった。


兵長、と呼ぼうとしたのだろう。シャオの唇が開いたと同時にリヴァイは口内に舌を滑り込ませた。逃がさないよう後頭部を押さえ込み、彼女の口内を執拗に貪る。リヴァイは固く目を閉じ、欲望に忠実にシャオの唇を求めた。



「んんっ…ふっ…」



舌を絡めとられ唾液を交換し合うと、シャオは今までにない欲を感じた。情欲にトロンと溶けた瞳は今、何を映しているのだろうか。

荒々しく唇を重ねながらも、リヴァイの手は優しく彼女の頭を撫でた。


漸く唇が離された時には、二人の間に銀糸が伝った。それが灯りの下で光り、その卑猥な光景にシャオの胸はドキンと鳴った。

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