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こんな時でもいつもの台詞を言ってくれるエレンに、ヒストリアの胸は締め付けられる。


ヒストリアが孤児院から中央へ戻る際、エレンが付き添ってくれていた。最初の頃は馬車での移動だったが、馬車だと時間もかかるし人手も大変だから、と数日後には馬での移動を希望した。しかしやはり女王一人での移動は危険だと皆が渋い顔をした時、付き添い役を名乗り出たのがエレンだった。




「……来れなかったら来なくてもいいよ」




「来るに決まってんだろ。……ちゃんと待ってろよ」




ぶっきらぼうにそう言い残し、ミカサの後を追いかけるエレンを、その細い後ろ姿を、ヒストリアは見えなくなるまで眺めていた。


後でまたエレンに会える。けれどミカサは…それでまた傷付くんだろう。



その場に残された荷物を見下ろし溜め息を吐くと、孤児院の方から小さな影が、幾つも走り寄ってくるのが解る。一人は荷車を押していた。


どうやら子供達が手伝ってくれるらしい。


そこにはさっきまでヒストリアを困らせていた腕白な二人の姿も見えて、ヒストリアの顔は次第に綻んだ。








◆◇◆◇◆◇




トロスト区にて。
調査兵団はとある対巨人兵器を誕生させた。




「やったぞ!!12m級撃破!!」




自身の発想がそのままの形で目の前に現れ、しかも巨人を倒すことに成功したものだから、ハンジは驚喜した。ピョンピョンと飛び跳ね、「さぁ新聞屋さん方!!また人類に朗報だ!!飛ばせ!!飛ばせ!!早いもん勝ちだ!!」と取材に来ていた記者達を囃し立てる。


自分達の仕事の成果をこの目で確認しようと足を運んでいたスヴェンも、眼下に広がる光景を見て口笛を鳴らす。




「こりゃあ良い、大砲や資源も消費せずに日中フル稼働で巨人伐採しまくりの地獄の処刑人か…」




何より兵士が命懸けで戦わなくても巨人を倒していけるのだ。



頑張って造った甲斐があった、と口角を上げてスヴェンは隣に立つシャオを見下ろす。




「これを大量に造って他の城塞都市にも…って思ったが、造るのは俺達とイェーガーか…」




現在技術班は対鎧用の新武器を開発中で、皆寝る間を惜しんで試行錯誤を重ねている。これ以上仕事を増やすと身を滅ぼす、とスヴェンが苦笑いを浮かべると、同じように複雑な表情をしたシャオが此方を見上げる。彼女の左手の薬指に光る指輪が、日を反射して煌めいた。



「エレンは…ここのところ硬質化の実験ばかりで、疲労が溜まってます。エレンの生み出す岩が無限にあるとは思わない方がいいかもしれません」




「イェーガーのやつ、具合悪いのか?今日はいねぇようだが」




「本人は平気だって言ってましたけど、無理をしてるのは一目瞭然なので今日は休ませました」




今は本部の兵舎で寝ているだろうが、夜になったら抜け出してヒストリアの居る孤児院へ行くだろう。そして中央の兵舎で寝て、朝になったらまたヒストリアを孤児院へ送り、その足で実験場に来る。それが最近のエレンの行動パターンだ。

二人は確実に距離を縮めているようで微笑ましかったが、その代わりミカサが辛い思いをしているのも解る。




「…スヴェンさんは…」




104期生全員の味方であるシャオは、こんな時どうすれば良いのか解らない。何せ自分はリヴァイに出会うまで、恋愛のれの字も知らなかったのだ。


どちらかが結ばれれば、どちらかが泣いてしまう。



「同時に二人の女の子から告白されたことありますか?」



縋る思いで恋愛経験豊富なスヴェンに助けを求めると、何の脈絡もなく恋の話を持ち掛けられ、虚を突かれたスヴェンは煙草を落としそうになった。




「…どーした、新婚早々火遊びか」




「違います。」



きっぱりと否定するシャオに身体を向け、スヴェンは柄にもなく爽やかな笑みを浮かべて正直に答えてやる。




「あるよ」




「!その時、どうしましたか?」




「どっちとも付き合うよ」




「・・・・・」




何か問題でも?と逸そ晴れやかな笑顔を見せるスヴェンに愕然として、シャオは二の句が告げない。いくら恋愛に疎いシャオでも、その答えがひん曲がっていることくらいは解る。



(スヴェンさんの話は参考にならない…)




二人どころか三人も四人も、最大五人まではいける、とヘラヘラ語り出したスヴェンを白い目で見て、彼に104期生の話はしないでおこう、とシャオは心に固く誓った。

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