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(アイツらは本当にクソ野郎だよ。多分…人類史上こんなに悪いことした奴はいねぇよ)




消さなきゃ。




「…エレン?」




あいつらはこの世にいちゃいけねぇ奴だ、一体何考えてたんだ?本当に気持ち悪いよ。


ライナー…お前の正義感に溢れたあの面構えを思い出すだけで…吐き気がしてくんだよ。




「エレン、」




なぁ…ベルトルト。お前だよ…腰巾着野郎。俺は話したよな?お前らの目の前で…俺の母さんが巨人に食われた時の話をしたよな?


お前らは兵士でも戦士でもねぇよ…ただの人殺しだ。何の罪もない人達を大勢殺した、大量殺人鬼だ!!




ーーー…このでけぇ害虫が。






「エレン!!」




名を呼ばれてハッとして、右隣のヒストリアを見下ろす。彼女は心配そうに此方を見上げていた。

あの二人のことを思い出すと決まって我を忘れてしまう…とエレンは自嘲気味に、悪ィ、と苦笑する。きっと酷い顔をしていただろう。一目で幻滅されるような恐ろしい顔を。


しかしエレンの予想に反し、ヒストリアはふんわりと笑って見せた。




「荷物運ぶの手伝ってくれてありがとう」




突然御礼を言われ、エレンはキョトンとして立ち止まった。ライナーとベルトルトのことなど、もう頭にないと言った風に、ヒストリアは澄んだ水色の瞳をエレンに向けている。




「今日は数が多くて、どうしようかと思ってたの。エレンがひょっこり来てくれて助かった」




硬質化実験後、気怠さを訴える身体に鞭を打ち、エレンは一人ローゼ内の牧場へ向かった。それは殆ど無意識の行動だった。
エレンはヒストリアに会いたかったのだ。


しかし、勿論それを伝える術は、残念ながら持ち合わせていない。

止まっていた足を再び動かすと、背が小さい分リーチが短いヒストリアは早足でついてくる。それに気付いたエレンは、あぁ、もう少しゆっくり歩くか、と速度を緩めた。




「…女王様に荷物運ばせる訳にはいかねぇよ」




「…エレンに女王様って言われたくない」




「…俺も、今言ってみたけどやっぱりお前を女王様だなんて思えねぇわ。人類なんて滅べばいいとか言ってたしな」



「あ!あの時は勢い余っただけだから…!!」




かあっと頬を赤くして反論するヒストリアを、エレンは悪戯な目で見下ろして笑う。ヒストリアはこの壁の女王だが、同じ104期の仲間であり、友達であり、エレンにとって唯一無二の理解者だ。


彼女も自分のことをそう思っていてくれたら嬉しい。


そう思って温かい目を向けた時、誰かが此方に近付いてくる足音が聞こえた。咄嗟に顔を上げると、近付いてくる人影がミカサだと解り、エレンは首を傾げる。


ミカサの表情は暗い。闇色に染まった瞳で此方を見据えている。




「…何だよ?」




突然現れたミカサにジトッと音がしそうな目で見つめられ怪訝に思い尋ねるが、その質問には答えずにミカサは「貸して」とエレンの荷物を引ったくる。不機嫌の理由が解らずエレンは首を傾げるが、それに構うことなくミカサは歩き出す。




「エレンは実験で疲れてる」




苛々と吐き捨てるように言った一言は、エレンではなくヒストリアに向けられていた。エレンとは違い、ミカサが何に対して怒っているのか、ちゃんと理解しているヒストリアは「そうだね…ごめんミカサ」と呟いて俯いた。

彼女のその震える声を聞いてハッとし、エレンは一度ヒストリアを見下ろした後、ムッとしてミカサ相手に反論する。




「おい、此処には俺が勝手に来たんだ。何も知らねぇのにコイツを責めるなよ」



「…………、」




「つーか俺を年寄りみたいに扱うのはやめろ」




もううんざり、といった顔で吐き捨てられ、前を歩いていたミカサは突然立ち止まる。そしてゆっくりと振り返り、エレンを見つめた彼女を見て、ヒストリアは息を呑む。



ミカサの目は涙で潤んでいた。




「お、おい……?」




滅多に見ないミカサの涙を見て、明らかに動揺したエレンは、取敢えず理由を聞こうとミカサに近寄ろうとするが、それは地面に乱暴に落とされた小麦の袋によって遮られる。

身を翻して去っていくミカサの背を、硬直したエレンが呆然と眺めていると、不意にばしんと背中を叩かれた。勿論、背中を叩いたのはヒストリアで。




「何ぼさっとしてるの。早くミカサを追いかけて」



謝ってきて、とハッキリと言うヒストリアに、エレンは訳がわからないと彼女を振り返る。責めるような強い水色の瞳が、此方を見つめていた。




「……謝るって、何をだよ……?」




「いいから。言う事聞きなさい」




「……わ、解りましたよ女王陛下……」




有無を言わさぬ声には逆らえずエレンはガクッと項垂れ、のろのろとミカサが去っていった方向へと足を向ける。




「……じゃあ、また日が沈んだ頃来るからな」







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