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調査兵団以外の参列者は、憲兵団師団長のナイル・ドークと、駐屯兵団のピクシス司令の二人だけだ。
それ以外は皆、調査兵団の兵士達。
結婚式というより、これは結婚パーティーに近い。
「なんじゃ、民衆も交えてもっと盛大に祝ってやれば良いものを」
早くも二つの酒瓶を空にしたピクシスがリヴァイを揶揄するように言うと、「見世物にされるのはごめんだ」とリヴァイはきっぱりと言い切る。
「調査兵団の兵士長が美しい妻を娶る、という明るい話題なら、公にしても良いと私も思ったんですがね」
ピクシスの意見に同意だったエルヴィンは、頑なに拒んだリヴァイを見て苦笑する。
『シャオを見せびらかしたいとは思わないのか』と尋ねたら、『知らねぇ野郎に見せてたまるか』と即答したリヴァイは、自分が地下街から連れてきた男とは到底思えない。
指輪交換の際、目を伏せて彼女の左手に唇を落としたリヴァイは、地下から這い上がってきた獰猛な獣のようなリヴァイとは、まるで別人のようであった。
その時、リヴァイから少し離れた場所で104期生達と談笑するシャオの元に、ハンジが酒瓶片手に走り寄っていくのが見えた。長年の友人と可愛い部下の結婚に、誰よりも喜んでいたのは他でもないハンジだ。今日ばかりはへべれけになっても、誰も文句は言わないだろう。
「シャオ!ほんっっとに綺麗!!もう、さいっこう!!最ッッ高の酒の肴!!」
「分隊長!シャオのドレスが汚れます!!」
感極まっているハンジは号泣し、鼻水をずるずると啜りながら、シャオを抱き締める。それを慌てて引き剥がそうとする彼女の忠実な部下であるモブリット。彼はいつも面倒事を押し付けられる苦労人であるが、実はこの破天荒な分隊長に密かに想いを寄せている。それは誰にも悟られることはないだろう。モブリットは感情を隠すのが上手いのだ。
苦笑しつつ、「シャオ、本当に綺麗だ。結婚おめでとう」と優しく声を掛けるモブリットを見上げ、ハンジから貰い泣きをしそうだったシャオも柔らかく微笑む。
「あのクソメガネ…相変わらず汚ぇな…」
その光景の一部始終を見守っていたリヴァイが、いつになく優しい表情で毒を吐いた時。
長身の一人の男が、シャオとハンジの元へゆっくりと歩いていく。その後ろ姿が何となく目につき、リヴァイは彼の姿を目で追った。
彼が片手を軽く上げてシャオに声を掛けると、シャオの表情はパアッと花が咲いたように明るくなった。隣のハンジは涙と鼻水まみれの酷い顔を恥ずかしげもなく晒し、男の右肩をバシンバシンと叩いている。
妙に親密な様子の三人を目の当たりにし、リヴァイの眉間に皺が寄る。
(…ハンジから、技術班とも仲が良いと聞いてるが…)
まさかアイツ、スヴェンと親しくしているのか?と思った瞬間、リヴァイの身体は勝手に動いた。
背後からリヴァイが近付いてくることには気付かず、スヴェンはシャオを見下ろし頬をポリポリと掻いた。
「こりゃあ…美人だなお前は、やっぱり」
頬をポリポリと掻き、長い前髪に隠れた目を瞬かせて言うと、ストレートに褒められて恥ずかしかったのかシャオは俯く。
その初な反応がお気に召したのか、次は何と言ってやろうかとスヴェンが口角を上げた瞬間、ドス黒いオーラを撒き散らしたリヴァイが二人の間に割って入る。
「テメェ……」
「おっ、主役登場。結婚おめでとう」
軽い挨拶を交わすかのように、へらへら笑いながら片手を上げるスヴェンを見て、彼の眉間の皺はより一層濃くなった。リヴァイとスヴェンが会話をしているところを初めて見たシャオは、物珍しそうに二人の顔を交互に眺める。
リヴァイより3つ年下だが、スヴェンが調査兵団に入団したのはリヴァイよりも1年程早かった。スヴェンは調査兵団の中でも古株だ。故に、リヴァイ相手にタメ口をきいても許されるご身分ということ。(まぁリヴァイは誰にタメ口をきかれても「敬語を使え」なんていちいち注意しないだろうが、彼を恐れて皆無意識に敬語を使うのが一般的である。)
祝って貰ったのにも関わらず、リヴァイは苦虫を噛み潰したような表情で、隣に立つシャオを見下ろす。
「…おい、この下衆野郎と今後一切関わるな。孕むぞ」
「…なんてこと言うんですか兵長…」
「そーだそーだ、なんてこと言うんだ兵士長。おめでたい席で」
つまらなそうに文句を言うスヴェンの横で、ハンジが腹を抱えて笑っている。泣いたり笑ったり忙しい奴だ、とリヴァイはハンジを睨み付け、盛大に溜め息を吐いた。
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