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「エレーン!」
下から声がしたので首を上げてそちらに目をやると、ちょうど立体機動でシャオが上がってきたところだった。
「体の具合どう?飲み物持ってきたから飲んで!あとこれで、頭冷やして」
「あ、ありがとうございます、わざわざ」
体調を気遣ってくれるシャオの優しさが身に沁みて、エレンは頬を赤く染める。冷たく冷えた氷枕は気持ちよくて、エレンはふーっと息を吐く。
近場で作業をしているスヴェンは、目線を此方に向けることなく、手元を見たままシャオに声を掛ける。
「…シャオちゃんさ」
「はい!何でしょうかスヴェンさん?」
「クソメガネさんが次は対鎧用の新武器をご所望みたいだから、話聞いてまとめといてくんない?」
「解りました!」
テキパキと働くシャオの背中を見送り、煙草の煙を吐き出したスヴェンはポツリと独り言をこぼす。
「…結婚すんのかぁ…」
そーかそーか、と一人頷くスヴェンの背中が哀愁に満ちていて、その切ない呟きを聞いてしまった罪悪感からか、エレンは咄嗟に彼の背中から目を逸らした。
◆◇◆◇◆◇
「シャオさん、ご結婚おめでとうございます」
純白のドレスを身に纏い、アンティークなヴェールで飾られたシャオは、女神ような美しさであった。普段はお団子に結んでいる髪は下ろしており、化粧を施した顔はいつもより大人びて見える。
「ありがとう、エレン」
幸せそうに微笑むシャオと、エレンは目と目を合わせることが出来ない。あまりにも綺麗過ぎて、直視できない。これは無理だ。顔が熱くなってきた。
それはジャンも同様で、固い表情でシャオを見下ろし、「お、おめでとう」と一人ぼそりと呟いている。肝心のシャオに聞こえないと意味がないのに。
コニーはいつも通りで、「すげー綺麗!めっちゃくちゃ綺麗っす!!」と鼻息荒くシャオの花嫁姿を褒め称えていた。
「ご結婚おめでとうございます!お二人の人生最良の門出を心からお慶び申し上げます!」
爽やかな笑顔でアルミンが100点満点の祝辞を述べると、その隣でミカサは一言「おめでとうございます」と告げる。彼女らしく非常にシンプルだ。
「ふふ、ありがとう。ミカサの花嫁姿見れる日、楽しみにしてるからね」
悪戯に笑って耳元で囁くと、ミカサは頬を赤く染めた。きっと彼女の脳内には、エレンが映ったのだろう。エレンは同期にモテモテなんだなぁと呑気に感心していたら、左手に皿を持ったままサシャが近づいてくる。
「シャオさん!ご結婚おめでとうございます!!私、今日初めてケーキ食べました!!」
「ありがとうサシャ!ケーキ美味しいよね」
「この世にこんな美味しいものがあったなんて…!」
知りませんでしたよぉ〜…!!と涙を浮かべるサシャは、結婚式に感動しているのかケーキに感動しているのか、最早解らない。多分後者だ。
それを見兼ねたヒストリアが、サシャの背を叩きながらもハンカチを差し出す。ヒストリアは今日、女王陛下としてではなく、104期生の一員として此処に居るのだ。
ヒストリアはシャオを眩しそうに見上げ、少女らしからぬ憂いを帯びた微笑みを見せる。
「シャオさん、ご結婚おめでとう…。あーぁ、今日から皆のシャオさんじゃなくなっちゃう」
「ありがとう、ヒストリア!何も変わらないよ…今日はちょっと、着飾ってるから違う人みたいだろうけど」
「でも、もうリヴァイ兵長のものだもん」
むすっと唇を尖らせるヒストリアは、とても一国を背負う女王には見えない。今では実の姉のように慕っているシャオをリヴァイにとられてしまうのが不満らしく、ヒストリアはじとっとした目を彼へと向けた。最近は、孤児や困窮者の管理を手伝って貰う事も多く、自分の隣に座っていることも多いので、リヴァイに対する恐怖心はいつの間にか消えてなくなっていた。
「いいなぁー兵長…シャオさんを独占できて」
そのリヴァイ兵長は、エルヴィンとピクシスに捕まり、何やら話し込んでいる。新郎であるリヴァイは正装をしているが、それ以外の参列者は皆、自由の翼を背負っている。
二人の結婚式は、調査兵団本部の広間で慎ましやかに行われた。
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