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突然ピタリと動かなくなったエレンには気付かず、リヴァイは壁外調査の時と同じようにエレンに問い掛ける。





「毎度お前にばかり…すまなく思うが。エレン、好きな方を選べ」




「…………!」






以前も同じことを訊かれた。そしてあの時は、判断を誤った。自分の力ではなく仲間の力を信じた結果、その場にいた全員を死なせてしまった。



でも今回は、そうはさせない。

させてたまるか。


此処に居るのは、エレンにとってかけがえのない人ばかりだ。





(ごめんなさい……)




エレンは駆け出した。彼の突然の行動に全員が目を瞠る。



…最後に一度だけ許してほしい。
自分を信じることを。


エレンの願いはただそれだけであった。





「うぁああああああぁ!!!」




絶叫と共にエレンは瓶を割り、飛び散った中の液体を口に含む。鎧の巨人…ライナーの姿が、瞼の裏にぼんやりと浮かんだ。





ーー…次の瞬間、轟音と共に天井が崩落した。








◇◆◇◆◇◆






夜の外の空気は冷たくて、皆の不安を煽る。
荷台に横たわっているハンジに寄り添い、シャオはぼんやりと、ロッド・レイスが駆けていった方角を目で追う。



リヴァイ班は全員無事だった。
咄嗟に巨人化したエレンが硬質化能力で頑丈な建物を作り、助けてくれたのだ。


アルミンの手当ての甲斐もあってか、ハンジは大分回復していた。目が覚めるなりシャオに脱出の経緯と突如這い出てきた超超大型巨人の説明を求めてきたが、当事者であるエレンの本体はまだ項の中である。今はリヴァイとミカサが懸命に本体をほじくり出そうとしている所だ。

なのでこれから話す事柄は全てシャオの憶測に過ぎない。



「エレンは瓶の中身を飲み込んで巨人化したように思えます。その結果、今までどうやっても出来なかった硬質化の能力を得て、私達を護ってくれました。巨人化出来る薬か何かでしょうか?レイス卿は本来ならヒストリアを巨人化させ、エレンを食わせる予定だった筈ですが、彼女がそれを拒んだ為に、自らその薬品の力で巨人化した…」



木々を焼き付くしながら何処かを目指すロッド・レイスの姿を目で追いつつ、シャオは考察を淡々と語る。ハンジは夜空を見上げて、痛みに耐えながらシャオの話を整理している。


それまで大人しくシャオの話を聞いていたアルミンは、ぽっかり空いた穴から聞こえてくる物音に気付き立ち上がる。

そして穴を覗き込むと、ぱあっと表情を明るくさせた。



「エレン!」




彼の名を呼び手を差し伸べると、エレンはアルミンの手を握り返す。そのまま彼の体を引っ張り上げ、アルミンはエレンとの再会を喜んだ。しかし巨人化の影響で顔には筋繊維の跡がくっきりと残っており、酷い顔色だ。その後ろから立体起動でリヴァイとミカサも上がってくる。リヴァイは片腕にヒストリアを抱えていた。


久しぶりに全員が揃い、シャオは安堵の溜め息を吐いた。全員生きて再会できることがシャオにとって至上の幸福であった。地下から上がってきたばかりのリヴァイが顰め面で荷馬車に向かってくるのが見える。




「ハンジは無事か?」




無事だと答える代わりにハンジは片腕を上げる。




「なら、いい…。オイ、へばってる場合じゃねぇぞハンジ。お前が喜びそうな話を持ってきた」



「…大体の話はシャオから聞いてるよ。エレン、硬質化…出来たんだって?」



「…何だ、もう知ってたのか」



つまんねぇ、と言いながら、リヴァイはシャオの隣に胡座をかく。そしてハンジの顔を覗き込み、ひでぇ顔だな、と呟いた。失礼な物言いに特に言い返すこともせず、ハンジは真剣な眼差しでリヴァイを見上げ、「エレンとヒストリアの話を詳しく聞きたい」と言った。それを聞いたシャオはすぐに立ち上がり、荷馬車から飛び下り二人を呼びに行く。


荷台の上に二人きりになった瞬間、ハンジはぽつりと呟いた。



「傷の手当てをしてくれたのが…シャオじゃなかったことに驚いたよ。何でアルミンに指示したの?」




確かに最深部に連れて行くより、ハンジの手当てを頼んだ方が幾らか安全だっただろう。しかし、リヴァイはあの時咄嗟に、敵が待ち構えているであろう奥へシャオを連れていく選択をした。


それは難しい質問だと言った風に腕を組み、リヴァイは重々しく答える。



「…あの時はケニーが何処に潜んでるか解らなかったのと…アイツは俺の目が届くところに置いとかねぇと何するか分かんねぇからだ」



むすっとそう答えるリヴァイに噴き出しそうになりながらも、ハンジは切なく眉尻を下げる。この人は本当に変わった。シャオと出逢って。たった一人の存在に振り回され、そしてこんなに人間らしいことを言うようになった。


それが嬉しくて、そしてほんの少しだけ寂しかった。



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