02.下手の横好き
ナルサスの部屋をあとに、俺達は宛もなく廊下を歩いていた。
「ねえダリューン。私の歌、そんなに酷いかな?」
「そうだな。俺にはそれほどの声を持ちながら下手な歌しか歌えぬお前がわからん」
「うわ、相変わらずはっきり言うね。私は真面目に歌っているつもりなのだけど……」
ナルサスとは違い、アーシャは自分の歌が下手だという自覚を持つ。
「そうね……夜な夜な下手な歌を歌い続けているのだもの。ナルサスに文句を言われるのも当然だわ」
彼女はため息を吐きながら肩を落とす。俺からしたら、自覚があるだけナルサスよりましだ。
「お前の歌はともかく、夜中に歌うのはやめた方がいいな。夜は声がよく通る」
それに夜更けに女性が出歩くのは関心しないと付け足すと、彼女は苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい。今度からは気を付けます」
本気で落ち込む様子の彼女に、なんだかこちらが申し訳なくなる。
「そこまで落ち込む必要はないだろう。何も歌うなと言われた訳ではないのだから」
「そうね。……ありがとうダリューン。それから、いつも下らない喧嘩に付き合わせてごめんなさいね」
少し元気を取り戻した様子の彼女が笑う。全く、下らないという自覚があるのなら、俺を巻き込むのはやめてほしいものだ。
「ダリューン様! アーシャ様!」
しばらく談笑しながら歩いていると、何やら名前を呼ばれて振り返る。そこには重そうな荷物を両手に抱えたエラムが立っていた。
「エラム! さっきは見苦しいところを見せちゃってごめんね」
近づきながらアーシャが言う。
「いえ、大丈夫です。 ダリューン様もありがとうございました」
エラムが荷物を抱えたまま頭を下げる。
「……ああ、気にするな。それより、その荷物俺が持とう」
彼は実際の年齢よりしっかりしているが、体はまだまだ子供のままだ。見たところかなり大きな袋であるし、こうして立ち話をするのも辛いだろう。
「ダリューン様、お気遣い感謝します。ですが、このくらい私一人で……」
「あら、いいじゃない。エラムは他にも仕事があるでしょう? ダリューンに任せた方が、かえって仕事が捗るわ」
「……」
アーシャの口添えにより、エラムがしぶしぶ荷物を手渡す。
「……では二階の調理場までお願いします」
この重さと場所からして、大方小麦粉か何かが入っているのだろう。
「じゃあ私は他の仕事のお手伝いでもしようかな。またね、ダリューン」
一礼をしながら去っていくエラムを見て、アーシャは慌てて追いかけて行った。
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